フロイト著作集第1巻
ざっと見た範囲での翻訳正誤表
『精神分析入門』
第21−22講
第21講
著作集p263/新潮文庫(新版)下巻p8
・(タイトル)第二十一講 リビドーの発達と性愛の組織(著作集)
・(タイトル)第二十一講 リビドーの発達と性的体制(文庫)
Organisationという語は、本文では(著作集でも)「体制」と訳されているので、著作集のタイトルは統一を欠いている。
著作集p264
・これを性的なものとして性格づけることに反対し
・これの性的な性格を反駁し
生殖機能への帰属性を示しているものも一応あるにはありますが
生殖機能への帰属性、ということになるかもしれませんが
文庫p9
二十三日と二十八日の周期性という生物学的表徴にしても
二十三日と二十八日の周期性という生物学的クライテリアにしても
・成人の性的な倒錯は
・成人の性倒錯は
性的倒錯がすべて生殖という目標を否定している
性倒錯がすべて生殖という目標を否認している
・きわめて興味深い一つの並行的な現象があります
・きわめて興味深い一つの並行的な事態があります
文庫p10
また性的倒錯が魅惑的なものとして、それを享楽している者に対するひそかな嫉妬心を、心の底で抑えなければならないかのごとくにです
また性倒錯を魅惑的なものとみているかのごとく、またそれを享楽している者に対するひそかな羨望Neidを制圧niederkaempfenしなければならないかのごとくにです
・罰を下す州代官は嫉妬の心を告白して
・罰を下す州代官は羨望を告白して
著作集p265
・やっとの思いで手に入れなければならないよろこびのために、なみなみならぬきびしい償いをしている哀れな連中なのです
・やっとの思いで手に入れなければならない満足のために、なみなみならぬきびしい目に遭っている貧乏神Teufelなのです
・対象と目的とが
・対象と目標とが
文庫p11
・それと思わせる程度のものによって代理されますが、これもやはり確実に性的だとは認められないのです
・確実に性的だとはさらに認めがたいその暗示に置き換わっています
誰も接吻を倒錯的だといって非難したりはいたしません。それどころか舞台では、それは性行為をほんのりとほのめかすものとして許されているのです。
誰も接吻を倒錯的だといって排除verwerfenしたりはいたしません。それどころか舞台では、それは性行為の穏当な暗示として許されているのです。
ある者にとって性的な愉悦をうるうえの
ある者にとって性的な享楽をうるうえの
文庫p12
・性器を他のもので代理することにある
・性器の置き換えErsetzungにある
・他のいっさいを除外してこれらの異常な行為のみを行い、生殖作用に役立つような性的動作を排除してしまうところにある
・これらの逸脱Abweichungのみを行い、生殖作用に役立つような性的行為は顧みられないbeiseite geschoben werdenという排他性にある
著作集p266
この資料の若干の特徴は役に立たぬものとして排除され
この材料の若干の特徴は役に立たぬものとして排されausscheiden
性の倒錯についてわれわれがくわしく知りえたものを
倒錯についてわれわれがくわしく知りえたものを
・目標に向かってひきめきあいます
・目標に向かって衝迫します
・したがってまた性愛の目標が
・したがってまた性的目標が
文庫p13
多数の部分欲動がたがいに独立してそれぞれの目的を追求して行動する、いやもっと適切にいえば、その行動を続けて行くからです
多数の部分欲動がたがいに独立してそれぞれの目標をもって実行durchsetzenしてきた、いやもっと適切にいえば、続行fortsetzenしてきたからです
・あなた自身の証言によっても漠然としている幼児期現象で、のちに性的なものになる現象を(著作集)
・あなた自身の証言によっても漠然としていて、のちに性的なものになる現象を(文庫)
・あなた自身の証言によっても漠然としている、のちに性的なものになる幼児期の表出を
むしろ生理学的な記述で満足して
むしろ生理学的な記述でよしとして
器官快感の追求を示す活動が観察できる
器官快感を志向する活動が観察できる
著作集p267/文庫p14
・私は性的結合の最高の快感さえ性器の活動に伴った器官快感にすぎない
・私は性的結合の最高の快感さえ性器の活動に拘束された器官快感にすぎない
「性的な性質は、性器がその役割を果たしはじめるその時につけ加わるのであって、この時、性的ということと生殖的ということとは合致する」
「性的な性質は、性器がその役割を果たしはじめるその時につけ加わるのであって、性的ということと生殖的ということとは〈概念として、一貫して〉合致する」
・快感をうるのに他の諸器官を用いて用いて性器の代理とすることができるという
・快感をうるのに他の諸器官を用いて用いて性器を代行するvertretenことができるという
感覚および神経支配
感覚入力Sensationおよび神経支配
遠く離れた他の身体部位へ置き換えられる(たとえば上方へ置き換えられて
遠く離れた他の身体部位へ移動される(たとえば上方へ置き直されてverlegen
文庫p15
「性的」という名称を器官快感を追求する幼児の活動にも
「性的」という名称を器官快感を志向する幼児の活動にも
・だからといって必ずしもそれ自身が性的なものであるとはいえないということも申しておきましょう
・だからといって必ずしもそれ自身が性的なものであるとはいえないということは認めます
著作集p268/文庫p16
この年ごろには性器にはすでに興奮がみられ
この年ごろには性器にはすでに動きがあり
・つまり性器による満足獲得の一時期が
・つまり性器による満足の一時期が
・特定の人々に対して情愛のこもった態度を採ること、それどころか男女のどちらか一方に対する傾斜
・特定の人々に対する情愛的な選り好み、それどころか男女のどちらか一方の採択Entscheidung fuer...
文庫p17
先にいくつかの見本をおみせした同じ時期の性的好奇心と
先にいくつかの見本をおみせした同じ時期の性的探究と
性交という行為の目標
交接という行為の目標
著作集p269
潜伏期が始まる以前の体験や心的な欲動には
潜伏期が始まる以前の体験や心的な動きには
忘れられてしまっている生涯のこの一時期の記憶を呼び戻す
忘れられてしまっている生涯のこの一時期を記憶に呼び戻す
・幼児の性生活では性器を首位に置くはっきりとした性的な体制が
・幼児の性生活では性器を首位に置くはっきりとした性的な組織Organizationが
「体制」についてはこの章では今後同様。
文庫p18
その欲求も全体としてかなり弱い
その全体としての志向もかなり弱い
・これはむろん理論でつくりあげたものにほかなりません。しかし、精神分析を実地にやってみれば、みなさんはそれが必然的で有用な理論であることを見いだされるでしょう
・これらはむろん〈理論的〉構築物にほかなりません。しかし、精神分析を実地にやってみれば、みなさんはそれらが必然的で有用な構築物であることを見いだされるでしょう
思春期以後は引き続いてその体制が保たれる性器の優位がうちたてられる以前に
思春期以後は引き続き体制化organisieren〈=組織化〉される性器優位がうちたてられる以前に
この性器優位の時期の前期には一種の大まかな性的体制があり(文庫)
この性器優位の時期の前期には一種のゆるい性的体制があり(著作集)
この性器優位の時期の前期には一種のより緩やかな体制Organisationがあり
サディズム的ならびに肛門愛的な部分欲動であります
サディズム的ならびに肛門的な部分欲動であります
「肛門愛」のように「愛」という語が入るのはまずい。「性愛」も本当は良くない。このあと全て同様。
著作集p270/文庫p19
・男女という両極性は、のちになってこの対極性と接合されるのです
・それ〈能動と受動の対立〉は、のちになってこの〈男女の〉対極性と接着されるのです
支配欲動の表現であることがわかりますが
征服Bemaechtigung欲動の表現であることがわかりますが
受動的な目標を持った欲求は
受動的な目標を持った志向は
見たいと思う欲動と、知りたいと思う欲動とは強力に活動していますが
視覚欲動と知識欲動とは強力に動いていますが
・この段階体制のうちから
・この体制のうちから
いかなる道を通ってこの段階の部分欲動が新たな性器期の体制の中にいやおうなく組みこまれるかがわかってきます
いかなる道を通ってこの段階の諸々の部分欲動が新たな性器体制の中に組みこまれねばならないかがわかってきます
文庫p20
個々の部分欲動がそれぞれの器官快感を求めて
個々の部分欲動がそれぞれの器官快感を志向して
著作集p271
さしあたりサディズム的肛門愛期が始まります。この段階の前が口愛期で(著作集)
そしてサディズム肛門愛期が始まります。この段階の前が口愛期で(文庫)
まず挙げるべきはサディズム的肛門期ですが、この段階の前が口唇期で
「口愛期」のように「愛」という語が入るのは、「肛門愛期」と同様、よくない。このあと全て同様。
いろいろの過程があって、それによって体制上のある段階からすぐ上の段階へと
いろいろのプロセスがあって、それによって体制上のある段階から、より後期の、すぐ上の段階へと
文庫p21
たとえば占有欲動(サディズム)、覗き見たいと思う欲動、および知りたいと思う欲動
たとえば征服Bemaechtigung欲動(サディズム)、視覚欲動、および知識欲動
すなわちまだ性的でない諸機能に依存している間だけ
すなわちまだ性的でない諸機能に依託〈=便乗、anlehnen〉している間だけ
乳児の摂食欲を満たす母の乳房です
乳児の摂食欲求を満足〈=解消、befriedigen〉する母の乳房です
乳を吸うときに同時に満足せられていた性的な成分は独立してしまい、乳房という外界の対象を放棄して、これを自分自身の身体と代えるのです。
乳を吸うときに同時に満足せられていたエロス的な成分は独立してしまい、乳房という他所のfremd対象を放棄して、これを自分自身の身体の一部と置き換えるersetzenのです。
肛門愛その他の性的な欲動が
肛門欲動その他の催情的な諸欲動が
・対象としての自己の身体をふたたび外界の対象ととりかえること
・自己の身体上にある対象をふたたび他所の対象ととりかえること
文庫p22
そこに見出された対象は、口愛期の快感欲動が他の機能への依存によって得られた最初の対象とほとんど同一のものである
そこに見出された対象は、最初の、口唇的な快感欲動が〈摂食欲求に〉依託〈=便乗、Anlehnung〉することによって得られた対象とほとんど同一のものである
著作集p272
性的な欲求の心的側面を前面に出し、その根底にある身体的あるいは「官能的」な欲動の要求を抑制したり
性的な志向の心的側面を前面に出し、その根底にある身体的あるいは「官能的」な欲動の諸要求をおし戻そうzurueckdraengen
またすでに幼児にあっては抑圧という心的な働き
またすでに幼児にあっては抑圧という心的な作業
著作集p273
・人間の道徳的な責任を無視し
・人間の道義的sittlichな責任を無視し
みずから犯罪からまもろうとする人間の道徳的な欲求が無力である
みずから犯罪から防御wehrenしようとする人間の道義的sittlichな動きが無力である
Moralの訳を「道徳」で統一した。
・人間が神々と運命とに罪を帰し、これを弾劾することを意図していると考えられそうです
・人間が神々と運命とを告発Anklageすることを意図していると考えやすいかもしれません
『喪とメランコリー』にある有名な一文、「彼らの訴えKlagenは告訴Anklagenなのです」で用いられているのと同じ語である。
この戯曲はおそらくそのような弾劾になったことでしょう
この戯曲はおそらくそのような告発Anklageになったことでしょう
その意志に服従することこそ最高の道徳なのだ
その意志に服従することこそ最高の道義性Sittlichkeitなのだ
文庫p25
・エディプスコンプレックスを自分の心の内部に見出し
・エディプスコンプレックスを自分のなかに見出し
・正体をあばきだされるかのように感じたのです
・正体をあばきだされるかのように反応するのです
・父を亡き者にして
・父を除去beseitigenして
それに自ら驚かざるをえないかのように感じているのです
それに自らぞっとせざるをえなかったかのようです
たとい自己の邪悪な衝動を無意識の中へ抑圧し去って、それらの衝動に対して
たとい自己の邪悪な動きを無意識的なものの中へ抑圧してしまい、それらの動きに対して
著作集p274
心のうちに感ぜずにはいられないのです
感知するよう強迫されるのです
人類の宗教および道徳の
人類の宗教および道義性の
その宗教および道徳の
その宗教および道義性の
・父親が居あわせるのを邪魔に思うこと
・父親が居あわせると、邪魔されていると感じること
父親が旅に出たり不在だったりすると満足の感情を示すこと
父親が旅に出たり不在だったりすると安心Zufriedenheitだと述べること
このような互いに対立する感情の状態、もっと適切にいえば、アンビヴァレンツ(感情の両価性)は
このような互いに対立する −もっと適切にいえばアンビヴァレントな− 感情の構え〈=体制、Einstellung〉は
無意識の世界で
無意識的なものの中で
小さい男の子の振る舞いは自己主張的な動機から出ているものであり、性愛的なコンプレクスの存在を仮定させたり、またこれを裏書きするものではない
小さい男の子の振る舞いはエゴイスティックな動機から出ているものであり、エロス的なコンプレクスの存在を提唱する根拠を与えるものではない
文庫p27
母親が他の人の世話をしないようにしてもらいたがります。実際そのとおりです
母親が他の人を気にかけbekuemmerenないように、という関心を抱きます。実際それは理にかなっています
「世話」は、Pflegenの訳語に限って用いる。
自己中心的関心は、性愛的な欲求が結びつく手がかりを提供しているにすぎません
エゴイスティックな関心は、エロス的な志向が結びつく依託〈=便乗、Anlehnung〉関係に役立っているにすぎません
著作集p275
・母親へのこの結びつきの本性が性愛的なものである
・母親へのこの拘束の本性がエロス的なものである
・これは自己中心的な観点からする限りは
・これはエゴイスティックな関心からみれば
文庫p28
父親へのやさしい情愛、母親を邪魔者としてかたづけてしまい
父親への情愛的ななつきかた、母親を邪魔者として除去beseitigenし
幼い女の子をかわいらしい姿にするのですが、この姿こそ
幼い女の子をかわいらしくみせるのですが、このかわいらしい姿こそ(文庫)
幼い女の子を魅力的な姿にするのですが、これこそ
幼児のエディプス的心構えが
幼児のエディプス的構え〈=体制、Einstellung〉が
自己中心的な気持ちが傷つけられることから、これらの新しく生まれた弟妹を憎悪をもって迎えたり、躊躇するところなくしりぞけてしまおうと願ったりするようになります
エゴイスティックな観点からみた損失に、やはり依託〈=便乗、Anlehnung〉して、これらの新しく生まれた弟妹に反感を感じたり、躊躇するところなく、願望のままに、除去beseitigenしようとするようになります
子供たちはむしろこのような憎悪の感情を
子供たちはむしろこのような憎悪の感覚を
このような願望が実現されてしまい、死の手が、好ましくない赤ん坊を
このような願望が充足〈=実現、Erfuellung〉されてしまい、死の手が、望ましくない赤ん坊を
この死亡事件は本人の記憶にいつまでもこびりついているわけではありませんが
この死亡事件は本人の記憶保持〈=Gedaechtnis〉にいつまでもこびりついているとはかぎりませんが
文庫p29
・しばらくは母親からほとんど見捨てられてしまった幼児は、母親からこのような扱いを受けたことをなかなか忘れないものです
・しばらくは母親からほとんど孤立させられてしまった幼児は、母親からこのように二の次にされたことZurueckstellungをなかなか忘れないものです
著作集p276
その幼児の心の中に生じて
その幼児に生じて
・いつまでも親によそよそしい気持ちを持つ土台となる(文庫)
・いつまでも親によそよそしい気持ちを持つ基礎となる(著作集)
・いつまでもつづく疎外感Entfremdung〈=離人感?〉の基礎となる
性的な探求心と
性的な探求と
彼らに対する態度には
彼らに対する構え〈=体制、Einstellung〉には
敵意のこもった競争
敵対的なライバル関係
もはや昔のようにはやさしく自分をかまってくれない
もはや昔のようには情愛的に自分を気にかけてkuemmerenくれない
父親との間にもうけたいと思いながらえられなかった赤ん坊の代理として
父親との間にもうけたいと願望しながらえられなかった赤ん坊の代理として
文庫p30
同一家族内の異性には性的欲求を感じなくなっているとか
同一家族内の異性からは性的な嗜好Neigungが逸らされているとか
それが近親姦に対する先天的嫌悪として心的な面で表現されている
それを、近親姦に対する先天的な躊躇Scheuが、心的に代表している
もし近親姦が行われないように計らうしっかりとした自然の障壁があるとすれば、法律や慣習という形式で
もし近親姦の企図に対するしっかりとした自然の防壁Schraenkenがあるとすれば、法Gesetzや道義Sitteという形式で
このいつまでも活動し続ける幼児型の傾向を現実のものとしないために(著作集)
いつまでも活動し続けるこの幼児型の傾向を現実のものとしないために
このいつまでも活動し続ける幼児型の嗜好Neigungを現実のものとしないよう抑止するために
そこには男の子とその母親との近親姦的な結びつきを断ち切り
そこには男の子とその母親との近親姦的な拘束を揚棄し
著作集p277/文庫p31
神経症に悩んでいる成人たち
神経症的になった成人たち
分析は神話の語っているとおりのことを示しているのです
分析は伝説の語っているとおりのことを示しているのです
母親に対するやさしさも、彼女を妻とするという目標を公然と告白しています
母親に対する情愛も、彼女を妻として所有するという目標を公然と告白しています
文庫p32
・母親に対する性的な願望が幼児にはまだ知られていないはずの諸形式をとって
・母親に対する性的な願望が幼児にはまだ無縁fremdのはずの諸形式をとって
著作集p278/文庫p33
その解決が理想的な仕方で
その処理Erledigungが理想的な仕方で
・私があまりあっさりとかたづけすぎはしないかと思っておられるでしょう
・私があっさりと飛ばしてしまうことを予感しておられるでしょう
著作集p279/文庫p34
自由な欲動生活のまっとうな表現と認められていた
抑制を受けない欲動生活の、〈表現するうえでの〉正当な代表物と認められていた
この邪悪な欲動がどこに由来しているか
この邪悪な動きがどこに由来しているか
文庫p35
それはごく早い幼児期に属し、意識生活にとってはとうに廃棄されたリビドーが、保管され、対象充当されたものなのです。そしてそれは、夜間には依然として存在しており、ある意味では作動する能力のあるものであることを示しています。
夜間にも、あるリビドーの配属、対象備給が存在し、それらがある意味では作働能力を持っていることがわかるわけですが、それは、ごく早い幼児期に属しており、意識生活にとってはとうに放棄されたものなのです。
倒錯とエディプスコンプレクスの対象充当の時期を経由する
倒錯の時期とエディプスコンプレクスの対象充当の時期を経由する
2001年8月11日作成/2002年7月16日増補改訂(増補分は行頭の「・」で表示)
第22講
著作集p281/新潮文庫(新版)下巻p37
性の欲求のある部分は
性的志向Sexualstrebungのある部分は
文庫p38
どの性の欲求にとっても可能なのだ
どの性的志向にとっても可能なのだ
われわれがこのような性欲求のいずれをも、生命が始まって以来引き続いている流れと考えており、ただいわば人為的に区分して、それを相前後して続く別々の推進運動という形で考えているにすぎない
われわれがこのような志向Strebungのいずれをも、生命が始まって以来引き続いている流れと考えており、ただいわば人為的に分解して、それを相前後して続く別々の一群Schuebeという形で考えているにすぎない
部分欲求が初期の段階に停滞すること
部分的志向が初期の段階に停滞すること
欲求の機能を発揮すること、すなわち欲求が満足をうるような目標に到達することが
志向の機能を発揮すること、すなわち志向の満足〈=解消Befriedigung〉という目標に到達することが
強い外的障害に突き当たって不可能になってしまう場合欲求はこのような退行現象を起こします
強い外的障壁Hindernisに突き当たって不可能になってしまう場合志向はこのような退行を起こします
つまり一応完成された機能も、その充足を妨げる外的障害に対してそれだけいっそう抵抗力がないことがわかるのです
つまり一応完成された機能も、その経過Ablaufへの外的障壁Hindernisに対してはそれだけいっそう抵抗できないことがわかるのです
文庫p39
リビドーを充当された最初の対象 −これは周知のように近親姦的な性質をもっていますが− への退行と、性愛の体制全体が早期の諸段階へ戻っていく退行の二通りです
リビドーを備給された最初の対象 −これは周知のように近親姦的な性質をもっていますが− への復帰Rueckkehrと、性愛の体制Organisation全体が早期の諸段階へ戻っていく復帰Rueckkehrの二通りです
著作集p282
とくに最初の近親姦的なリビドー対象への退行は
とくに最初の近親姦的なリビドー対象への復帰Rueckkehrは
文庫p40
みなさんがこの二つの過程の関係を
みなさんがこの二つのプロセスの関係を
ここは例外的で、ふつう本文中の「過程」は「Vorgaeng」の訳語。
抑圧とは意識にのぼる資格をもつある行為、つまり前意識の体系に所属している行為を、無意識的にする、つまり無意識の体系の中へ押しもどす過程です。
抑圧とは意識可能なある行為、つまり「前意識Vbw」のシステムに所属している行為を、無意識的にする、つまり「無意識Ubw」のシステムのなかへ押し返すzurueckschiebenという事象です。
ここでは「行為」は「心的行為」を指す。
無意識の心的行為一般が、すぐ隣り合わせの前意識系の中へはいることが許されず、敷居のところで検閲官によって押しもどされることをも、同じく抑圧と呼んでいます。
無意識的な心的行為が、すぐ隣り合わせの前意識的システムの中へはいることをそもそも許されず、敷居のところで検閲によって却下されるzurueckweisenことをも、同じく抑圧と呼んでいます。
抑圧という概念は、純粋に心理学的な過程を言いあらわすもので、局所的過程と呼べば特徴がもっとはっきりする心理過程です。
抑圧という概念は、純粋に心理学的な事象を言いあらわすものであり、この事象は局所的事象と呼べば特徴がもっとはっきりするものです。
それが心的な空間という仮定に関連するものだ
抑圧という概念は心的な空間という仮定に関連するものだ
その過程は、別々の心的系統から成り立っている心的装置の構造に関連しているということです。
抑圧という概念は、別々の心的システムからなる心的装置の成り立ちAufbauに関連しているということです。
・すなわちより高い発達段階から低い段階へ戻ること
・すなわちより高い発達段階から低い段階への復帰Rueckkehr
より低い段階へ戻ることだと言えるからです。
より深部の段階への復帰Rueckkehrだと言えるからです。
・抑圧の場合には後退の方向が問題ではないということだけです。なぜなら、ある心的行為が無意識という
・われわれは抑圧の場合には後退の方向を問題にしているわけではないということだけです。なぜなら、ある心的行為が無意識的なものという
文庫p41
もっぱらリビドーが発達途上の早期の駐屯地に戻ることのことでした
もっぱらリビドーが発達上のより早期の駐屯地に復帰することRueckkehrのことでした
著作集p283
・リビドーの退行は心的活動の上に
・リビドーの退行は心的生活の上に
・性愛の体制上の初期の段階への退行はないといってもいいのです
・性愛の体制上の初期の段階への退行はほとんどおこりません
・もしヒステリーについてわれわれがこれまでに確認し得た知識を理論的に構築して、完璧なものにすることが許されるとすれば
・もしこの神経症についてわれわれがこれまでに確認し得た知識を構成して完成することが許されるとすれば
・性器の優位のもとにいろいろな部分欲動の統一がなしとげられますが、そこから生ずるいろいろな所産は
・性器の優位のもとにいろいろな部分欲動の統一がなしとげられたのですが、そこから生ずるいろいろな帰結は
性器優位の体制は無意識にあてはまるが、前意識にも同じくあてはまるというわけではありません。
性器体制Organisationは無意識的なものにあてはまるが、前意識的なものにも同じくあてはまるというわけではありません。
文庫p43
このように前意識の側から拒否されるために、性器が主位を占める以前の状態とある類似性をもった状態が現れてくるのです。
このように前意識的なものの側から拒否されるために、性器優位の以前の状態と一定の類似性をもった状態像が現れてくるのです。
・二つのリビドーの退行現象のうちでは、性的体制上の初期の段階への退行の方が、はるかに顕著なものです。このような退行はヒステリーの場合には欠けています。しかも
・二つのリビドーの退行のうちでは、性的体制上の初期の段階への退行の方が、はるかに注目すべきものです。このような退行はヒステリーの場合には欠けており、しかも
「おまえを殺したい」
「わたしはおまえを殺したいich moechte dicdh ermorden」
・しかし偶然ではなく不可避的な付加物から解放してやれば、「わたしはおまえを愛したい」という願望にほかならないのです
・しかし偶然ではなく不可避的な付加物から解き放してやれば、「わたしはおまえを愛し享受〈享楽〉したいich moechte dich in Liebe geniessen」ということにほかならないのです
著作集p284
・また同時にこの強迫観念が患者の意識的知覚に与える異様な感じを
・また同時にこの強迫観念が患者の意識的知覚に現れる際の身に覚えのなさFremdartigkeitを
文庫p43
この点の分析は
この点の説明は
・神経症をもっともよく性格づける過程である
・神経症をもっともよく性格づけるプロセスである
「拒否」にあうと、そのために神経症になるということです。そして、その症状はとりもなおさず、拒否された満足の代理であるということです。むろんそれは、リビドーの満足の拒否が、拒否された当人を必ず神経症にするという意味ではありません。それはただ、神経症の症例でおよそ検討された限りでは全て拒否という因子が立証されたということにすぎないのです。(文庫)
「拒否」にあうと、そのために神経症になるということです。そして、その症状はとりもなおさず、拒否された満足の代理であるということです。むろんそれは、リビドーの満足の拒否が、いつまでも拒否された当人を必ず神経症にするという意味ではありません。それはただ、神経症の症例でおよそ検討された限りでは全て拒否という因子が立証されたということにすぎないのです。(著作集)
「頓挫Versagung」に際して神経症になるということです。そして、その症状はとりもなおさず、頓挫したversagt満足〈=解消〉の代理であるということです。むろんそれは、リビドーの満足の頓挫Versagungが、それが降りかかった当人を必ず神経症にするという意味ではありません。それはただ、神経症の症例でおよそ検討された限りでは全て頓挫Versagungという因子が立証されたということにすぎないのです。
文庫p44
この命題を引き続き論議して行くためには、拒否の本性をとりあげていくべきか、あるいは拒否を受けたものの特性によりどころを求めて行くべきか、これはいまのところわかりません。ともあれ拒否が全面的であり、しかも絶対的なものであるということは、きわめて稀なのです。病因として力を発揮するためには、たぶんその人間だけが渇望しており、その人間だけがそうする能力をもっているような満足の方法が拒否されるというのでなければなりません。
この命題を引き続き論議して行くためには、頓挫Versagungの本性をとりあげていくべきか、あるいは頓挫Versagungに陥ったものの特性によりどころを求めて行くべきか、これはいまのところわかりません。ともあれ頓挫Versagungが全面的であり、しかも絶対的なものであるということは、きわめて稀なのです。病因として力を発揮するためには、たぶんその人間だけが渇望verlangenしており、その人間だけがそうする能力をもっているような満足の方法が、頓挫Versagungに陥るのでなければなりません。
一般的にいって、リビドーの満足が与えられないことに耐えて、そのために病気にかかることもなく過ごすという道は非常にたくさんあります。まず第一にわれわれは、このような満足の欠如を無害に受けとめることのできる人々を知っています。
一般的にいって、リビドーの満足〈=解消〉の欠乏Entbehrungに耐えて、そのために病気にかかることもなく過ごすという道は非常にたくさんあります。まず第一にわれわれは、このような欠乏Entbehrungを無害に受けとめることのできる人々を知っています。
著作集p285
・満足を求めて悩みますが
・思慕Sehnsuchtに悩みますが
性的欲動は −もしそう言ってもよければ− きわめて可塑的である(文庫)
性的欲動の動きは −もしそう言ってもよければ− はなはだしく可塑的である(著作集)
ここは著作集がよい。
それらの欲動にあっては、あるひとつのものが他のものの代わりをつとめることができますし、その代わりをつとめた欲動の強さは、さきの欲動の強さをそのまま担うこともできるのです。
それらの動きにあっては、あるひとつのものが他のものの代わりをつとめることができますし、その代わりをつとめた動きの強さは、さきの動きの強さをそのまま担うこともできるのです。
一方の満足が現実によって拒否された時には、他のものを満足させることでそれを完全に償うことができます。
一方の満足〈=解消〉が現実によって頓挫させられたversagt sein時には、他のものの満足〈=解消〉でそれを完全に代償することができます。
文庫p45
それらの部分欲動から組織されている性の全体的欲動と全く同じく
それらの部分欲動をまとめてできている性的志向と全く同じく
この置き換えの可能なことと、進んで代用物を受け入れる準備体制が整っていることとは、拒否のもつ病因的な作用に対して強力に阻止的に働くにちがいありません。
この移動可能性と、代替物を受け入れる準備が整っていることとは、頓挫Versagungのもつ病因的な作用に対して、強力に反対するにちがいありません。
満足の欠如からくる罹患を防ごうとするこれらの過程のうちで、ある種の過程は
欠乏Entbehrungからくる罹患から保護schuetzenしているこれらのプロセスのうちで、ある種のプロセスは
その過程とは、性愛の欲求が部分快感や生殖快感を得るための目標を放棄して
そのプロセスとは、性の努力が、部分快感や生殖快感に向かうという目標を放棄して
・われわれはこの過程を「昇華」と呼んでいます
・われわれはこのプロセスを「昇華」と呼んでいます
文庫では昇華に「ズプリマチオン」とルビがふられているが、 原語はSublimationではなくSublimierungである。
この場合、われわれは結局は自己中心的な性的目標よりも社会的目標を高等だとする一般的な考え方に従っているわけです。それはともあれ昇華作用は、性愛の欲求が性的ならぬ他の欲求に援護を求めるひとつの特殊例であるにすぎません。
この場合、われわれは結局は利己的selbstsuchtigな性的目標よりも社会的目標を高等だとする一般的な評価に従っているわけです。それはともあれ昇華は、性的志向が性的ならぬ他の志向に便乗〈=依託、Anlehnung〉するひとつの特殊例であるにすぎません。
さてみなさんは、満足させられないという不快は、すべてこれらの満足させられないということを耐え忍ぶための手段によって消滅してしまうという印象をもたれるでしょう。(文庫)
さてみなさんは、満足させられないという不快は、満足させられないということを耐え忍ぶための、すべてこれらの手段によって消滅してしまうという印象をもたれるでしょう。(著作集)
さてみなさんは、欠乏Entbehrungは、それに耐えるためのこれらの手段すべてを用いることによって、さほど重大なものではなくなるという印象をもたれるでしょう。
文庫p46
昇華の能力も、多くの人々には、ただわずかな程度しか与えられていないということは別としても、いつもただリビドーの何分の一かを解決しうるにすぎないのです。
昇華も −多くの人々には、昇華する能力はただわずかな程度しか与えられていないということは別としても− いつもただリビドーの微少な部分を処理しうるにすぎないのです。
著作集p286
性的体制上からも対象発見上からも
体制上からも対象発見上からも
拒否または挫折体験とあいまって疾病の原因となる
頓挫Versagungとあいまって疾病の原因となる
拒否はその偶然的・外部的因子を代表するものである
頓挫Versagungはその偶然的・外部的因子を代表するものである
文庫p47
そのある者は自己主張的な欲動のみを認めて性愛の欲動を否認し
そのある者はエゴイスティックな欲動のみを認めて性的欲動を否認し
それとも拒否の圧力によって引き起こされるのか
それとも頓挫Versagungの圧力によって引き起こされるのか
性的素質と体験、あるいはリビドー固着と拒否といってもよろしいでしょう
性的体質Sexuaklonstitutionと体験、あるいはリビドー固着と頓挫Versagungといってもよろしいでしょう
この段落の「性的素質」は全て「性的体質」に変更。他の箇所では、Anlageが「素質」と訳されている。
著作集p287/文庫p48
リビドーが特定の方向と対象とに固着する執拗さ(文庫)
リビドーが特定の方向と対象とに固執する執拗さ(著作集)
リビドーが特定の方向と対象とに付着haftenする粘り強さZaehigkeit
文庫p49
・ある意味では神経症患者とは全く違っている人々、すなわち性的倒錯者においては
・ある意味では神経質者とは全く違っている人々、すなわち倒錯者においては
・すでに精神分析が世に出る以前に、非常に早い時期から性的倒錯者たちの病歴の中には欲動が異常な方向をとっていたり、異常な対象選択をしているという印象を与えるものが発見され、性的倒錯者のリビドーは終生この印象に固着しているということはよく知られていました。(文庫)
・すでに精神分析が世に出る以前に、非常に早い時期から性倒錯者たちの病歴の中には欲動が異常な方向をとっていたり、異常な対象選択をしているという印象を与えるものが発見され、性倒錯者のリビドーは終生この印象に固着していたということはよく知られていました。(著作集)
・すでに精神分析が世に出る以前から知られていたことですが、倒錯者たちの病歴の中には、欲動方向や対象選択の異常さに関連する非常に早い時期の刷り込みEindrueckがあって、これに倒錯者のリビドーが生涯にわたって付着していることが実にしばしば発見されます。
女性の性器が与える刺激も、その他のすべての刺激も
女性の性器が与える魅力〈=刺激、Reiz〉も、その他のすべての魅力〈=刺激、Reiz〉も
・彼を抗しがたい性的興奮状態に
・彼を抗しがたい性的興奮に
著作集p288
その時に彼が見たこの家庭教師の細く筋ばった足が、いまや彼の唯一の性的対象になったのです。それは、彼が思春期になっておそるおそる正常な性的行為を試みたあとのことでした。
その時に彼が見たこの家庭教師の細く筋ばった足が、いま、思春期になって一度はおそるおそる正常な性的活動を試みたあと、彼の唯一の性的対象になったのです。
あの英語の家庭教師のタイプを思い出させる他の特徴が加わると
あの英語の家庭教師のタイプを想起させる他の特徴が加わると
文庫p50
前に述べた拒否という条件と同様に
前に述べた頓挫Versagungという条件と同様に
・人格の一部がある願望の味方になっているのに、他の一部分がこれに反抗し、それを防ごうとするのです。
・人格の一部がある一連の願望の代弁者になっているvertretenのに、他の一部分がこれに反抗し、それを防衛abwehrenしようとするのです。
ご存知のとおりわれわれの心的活動は
ご存知のとおりわれわれの心的生活は
どのような心的エネルギーの間に
どのような心的諸力Machtの間に
文庫p51
葛藤は欲求拒否によって呼び起こされます。満足をえそこなったリビドーは
葛藤は頓挫Versagungによって呼び起こされます。満足を失ったリビドーは
著作集p289
はねつけられたリビドーの欲求は、あるまわり道を通ってやはり自己の望んでいることを貫徹します。むろんその際もある種の歪みを受け、緩和されることによって抗議が起こるのを考慮しないわけにはいきません。
追放されたリビドーの志向は、あるまわり道を通ってやはり貫徹します。むろんその際も、抗議を考慮して、ある種の歪曲と緩和がなされます。
拒否という事実によってやむを得ないものとなった新しい満足、すなわち代償満足なのです。
頓挫Versagungという事実によってやむを得ないものとなった新しい満足、すなわち代理満足なのです。
すなわち外的な拒否が病因として働くためには、そこにさらに内的な拒否が加わらなければならないということです。この時、外的な拒否と内的な拒否とは、むろん異なった対象と方法に関係することになります。外的な拒否は満足の一方の可能性を奪い去り、内的な拒否はもう一方の可能性を閉め出そうとします。
すなわち外的な頓挫Versagungが病因として働くためには、そこにさらに内的な頓挫Versagungが加わらなければならないということです。この時、外的な頓挫Versagungと内的な頓挫Versagungとは、むろん異なった対象と方法に関係することになります。外的な頓挫Versagungは満足の一方の可能性を奪い去り、内的な頓挫Versagungはもう一方の可能性を除外しようとします。
文庫p52
内的な妨害は現実的な外的障害から生じたのだろう
内的な抑止Abhaltungは現実的な外的障壁Hindernisから生じたのだろう
リビドーの欲求に対して抗議する諸力(文庫)
リビドーの欲求に対して抗議するエネルギー(著作集)
リビドーの志向に対して抗議する諸力
さまざまな欲求の間の葛藤
さまざまな志向Strebungの間の葛藤
二つの性的欲求が葛藤状態にある場合
二つの性的志向Strebungが葛藤状態にある場合
自我と性欲との間の葛藤
自我と性との間の葛藤
このあと、性欲はすべて性に変更。
世人はいつも憤激して、人間というものは単に性欲だけからなるものではない、心的活動には
世人はいつも憤激ながら防衛し、人間というものは単に性だけからなるものではない、心的生活には
性的でない欲動の存在も忘れてはいません
性的でない欲動力Triebkraftの存在も忘れてはいません
著作集p290/文庫p53
自我欲動の存在あるいは意義を否定しようとする動機は全くもち合わせていないのです。
自我欲動の存在あるいは意義を反駁bestreitenしようとする動機は全くもち合わせていないのです。
自我の構造についての
自我の成り立ちAufbauについての
・自我の発達段階を理論的に構成しようとする一つの注目すべき試みがあり、われわれはこれによって自我の発達を評価する上の拠点を少なくとも二カ所は手に入れております。すなわちわれわれは
・自我の発達段階を理論的に構築しようとする一つの注目すべき試みがありますし、少なくともわれわれはこの発達を判定する確かな手がかりfeste Anhaltspunkte〈=定まった基準点〉を少なくとも二箇所zwei Stellenで手に入れてきました。われわれは
この二箇所というのが何を指すかははっきりと述べられているわけではないが、少なくとも、フェレンツィの試論の内容を指すわけではなさそうに読める。
文庫p54
しかし、この経過が自我の側から影響を受けて、自我とリビドーとの間にはある種の並行関係、すなわち両者の発達段階の一定の対応関係が同じようにあらかじめ予見されるということ、いやそれどころか、この対応がかき乱されると病因的な要素さえ生じうるということも否定できないのです。
しかし、この経過が自我の側から影響を受けることも退けてabweisenはいけません。自我とリビドーとの間にはある種の並行関係、すなわち両者の発達段階の一定の対応関係が同じようにあらかじめ予見されてよいですし、いやそれどころか、この対応が障害されると病因的な要素さえ生じうるのかもしれません。
・ところでわれわれによってより重大な観点は
・ところでわれわれによって重大な観点Gesichtpunktは
・自我がリビドーのこの固着を拒否する態度をとる
・自我がリビドーのこの固定Festsetzungを拒否する態度をとる
著作集p291
最も一般的な条件として拒否、ついで一定の方向に向かってリビドーを押しやるリビドーの固着、第三に、このようなリビドーの衝動を拒む自我の発達から生じる葛藤傾向であります
最も一般的な条件として頓挫Versagung、ついで一定の方向に向かってリビドーを衝迫するリビドーの固着、第三に、このようなリビドーの動きを拒否した自我の発達から生じる葛藤指向Neigungであります
両方の子供にある種の性的な欲情を引き起こすには十分であり、この欲情は
両方の子供にある種の性的な動きを活性化するには十分であり、この動きは
なお、邦訳におけるこの段落と次の段落は、原文では同一段落である。
著作集p292
新たに起こってきた自慰をしてみたいという抑えがたい激しい衝動にうちまかされるでしょうが、それをどうすることもできないのです。(文庫)
新たに起こってきたオナニーをしてみたいという抑えがたい激しい衝動にうちまかされるでしょうが、あえてそれを悲しみもしないのです。(著作集)
新たに起こってきたマスターベイションをしてみたいという抑えがたい衝迫unbezwingbaren Drangに屈するでしょうが、その悩みを思い切ってうちあけることはできないのです。
性の欲動を完全に抑圧してしまっていたことがわかります。この性の欲動は −彼女には意識されないままに−
性的な動きを完全に抑圧してしまっていたことがわかります。この性的な動きは −彼女には無意識的なまま−
文庫p57
教育によって与えられた鼓舞激励にもとづいて、女は純潔で性的なものの必要を感じないものだという
与えられたそそのかしAnregungにもとづいて、女は純潔で無欲Unbeduerftigkeitだという
著作集p293/文庫p58
これまた現実の拒否なのです。
これまた現実による頓挫Versagungなのです。
生の苦しみ、すなわちギリシア語のアナンケーです。(文庫)
生の必然、すなわちギリシア語のアナンケーです。(著作集)
生の窮迫Not、すなわちギリシア語のアナンケーです。
生の必然を発達の推進力として評価したとしても
生の窮迫Notを発達の推進力として評価したとしても
文庫p59
性の欲動と自己保存の欲動とが現実の必然に対して
性の欲動と自己保存の欲動とが現実的窮迫Notに対して
生の必然に応じて現実の指示に適合しながら発達していくことを学びます。
生の窮迫Notに応じて現実の指示に合わせて仕組みを作るeinrichtenすることを学びます。
自己保存の欲動は自己の必要とする対象を
自己保存の欲動は、それが欲求する対象を
性の欲動ははじめは対象にことを欠くということを知らないからです。
性の欲動ははじめは対象に関する窮迫Notを知らないからです。
性の欲動は身体の他の機能にいわば寄生するような格好で
性の欲動は身体の他の機能にいわば便乗〈=依託、Anlehnung〉するような格好で
現実の必然という教育上の影響は、さしあたりは封じられた形になっています。
現実的窮迫Notの教育上の影響から、さしあたりは逃れています。
しかも性本能はわがままで(著作集)
しかも性の欲動はわがままで(文庫)
ここは文庫を採る。
著作集p294/文庫p60
二つの欲動群の間にある
欲動の二つのグループの間にある
ここまでの「性欲動」「自我欲動」はいずれも複数形であり、それぞれにはいくつもの欲動が属していることも指摘しておく。
われわれの心的活動はすべて快感を求め、不快感を避けることに向けられている
われわれの心的活動はすべて、快感を獲得し不快を予防することに向けられている
低下または消滅と結びついており、不快は刺激の量が高まることと結びついている
低下または消滅に拘束bindenされており、不快は刺激の量が高まることに拘束bindenされている
このような快感をうる過程では
この快感という事象では
文庫p61
その片をつけるという目的に奉仕する
処理するerledigenという意図に奉仕する
最初は同じものをえようと努めますが、必然性という教育者の影響のもとに、間もなく快感原則をある変容によって補足することを覚えるのです。
最初は同じものを志向していますが、窮迫Notという教育者の影響のもとに、間もなく快感原則をある修正版Modificationによって置き換えるersetzenことを覚えるのです。
著作集p295
性の欲動が自我の欲動の発達の途上におけるこの移行の道程をおくればせに、しかも抵抗しながら経過することを知っています。
性の欲動が自我の欲動の発達のこの部分を、後から、しかも逆らいながら経験することを知っています。
このようななまぬるい関係を結ぶことで満足する
ゆるやかな関係だけでよしとする
2001年9月9日作成/2002年7月26日増補改訂(増補分は行頭の「・」で表示)