フロイト著作集第10巻

「ヒステリーの病因について」

ざっと見た範囲での翻訳正誤表

 

p7

まず過去の病歴を調査することから取りかかります

まずアナムネーゼ[=病歴聴取]の探究から取りかかります

「アナムネーゼ」は患者や家族が語るものであり、12頁上段9行目や19頁上段13行目に出てくる「病歴Krankengeschichte」とは違って、病気が辿ってきた真の歴史ではないことに注意が必要である。

 

彼ら自身がそのヒステリー性の神経症的症状の病気について、どんな有害な事柄の影響と考えているか

彼ら自身がそのヒステリー性の神経症症状の罹患について、どんな有害な事柄の影響と考えているか

 

ある種の繰り返される説明をわれわれは一方では認めますが

ある種の繰り返される申告Angabeをわれわれは一方では認めますが

この頁の最終行の「患者の言葉」という部分や、19頁下段13行目の「分析を受けている人物の陳述」といた部分にも同じ「Angabe」という語が用いられているから、ここも「患者からの申告」と解したい。そうするとこの文は、直前の文を具体的に説明していることになるから、文脈的にもすっきりすると思われる。

 

このような病歴の調査に際しては、たとえ患者の信ずることでも、詳しく批判的に検討するまでは決して信じようとせず、また神経症の病因に関するわれわれの科学的意見を患者の言うままになって変更したりはすまいという態度を堅持します

このようなアナムネーゼの探究に際しては、たとえ患者の信ずることでも、詳しく批判的に検証Pruefungするまでは決して信じようとせず、また神経症の病因に関するわれわれの科学的意見を患者がこしらえるままに受けいれたりはすまいという決心を堅持します

「Pruefung」は「現実検討Realitaetspruefung」という場合にも用いられる語だが、単に頭の中で検討するという意味ではなく、事実との照合によって確認するという意味を持つ。ここは「検証」としておいた。

 

ヒステリー状態とはかつて起こった激しい感動の持続的影響である

ヒステリー状態とはかつて起こった情緒の動きの持続的影響である

 

もしも患者の言葉にもっと依存しないで

もしも患者の申告にもっと依存しないで

 

p8

病歴を聴取する際の旧来の方法について

アナムネーゼ[=病歴聴取]の調査の際の旧来の方法について

 

p9

かつての心的過程に後ればせの訂正を加える

かつての心的経過Ablaufに事後的な訂正を加える

ここを除いてこの論文内の訳語「過程」の原語は「Vorgang」である。この語は(ある種の記憶痕跡が残っているというような)静的状態を指すこともあるので、その訳語としては「事象」の方が良いが、煩雑なので今後とくに指摘しない。

 

この治療法の持つ難しい技術や

この療法[=テラピー]上の手続きの持つ難しい技術や

 

ブロイアーの命題が多数の症例の検討によって正しいと証明された以上

ブロイアーの命題が多数の症例の検証によって正しいと証明された以上

 

ヒステリー症状の原因をある外傷的場面に帰すのは

ヒステリー症状の原因をある外傷的場面に帰すことは

 

嘔吐がたとえば鉄道事故のような大きな恐怖の後に生じている場合には、いったいなぜその恐怖が嘔吐などを引き起こしたのか、あきたりない気持ちで自問せざるをえないでしょう。

嘔吐がたとえば鉄道事故のような大きな驚愕Schreckの後に生じている場合には、いったいなぜその驚愕が嘔吐などを引き起こしたのか、あきたりない気持ちで自問せざるをえないでしょう。

 

p10

次に述べる三つの他の可能性のうち、その一つが現実に現れていることの方が

次に述べる三つの他の可能性のうち、その一つが出現しているverwirklichenことの方が

 

その上何の治療的効果も生むものではありません

その上何の療法[=テラピー]上の利得も生むものではありません

 

ヒステリー症状から外傷体験の想起へと至る道程を発見すれば

ヒステリー症状から外傷体験の記憶へと至る道程を発見すれば

 

p11

その再生がより大きな治療的効果を発揮する

その再生がより大きな療法[=テラピー]上の作用を発揮する

 

最初に見出された場面は連想の連鎖の一環としての意義しかもっていないのではないでしょうか

最初に見出された場面は連合の連鎖の一環としての意義しかもっていないのではないでしょうか

 

再生に当たっての必然的経過として

再生に当たっての必然的な過渡的事項Uebargaengeとして

 

治療的にも分析的にも

療法[=テラピー]的にも分析的にも

 

同一の技法に従って患者の注意を連想の糸、つまり見出された記憶と見出されるべき記憶を結びつける連想の糸へと導きます

同一の技法に従って患者の注意を連合の糸、つまり見出された記憶と見出されるべき記憶を結びつける連合の糸へと導きます

 

最初鉄道事故に遭った際の恐怖体験によって起こったと考えられたのですが

最初鉄道事故に遭った際の驚愕体験によって起こったと考えられたのですが

 

この事故が他のもっと昔の事故の思い出を呼び覚ましたこと

この事故が他のもっと昔の事故の記憶を呼び覚ましたこと

 

第一の体験が恐怖によって外傷的な力を供給し

第一の体験が驚愕によって外傷的な力を供給し

 

この二つの記憶の連想がどういう順位をもっているか

この二つの記憶の連合がどういう地位をもっているか

 

考え出したものであることを告白しなければならないからです。おまけにどうもあまりよい思いつきではなかったようです。

でっち上げたerfindenものであることを告白しなければならないからです。おまけにどうもあまりよいでっち上げerfindenではなかったようです。

ここにはさほど問題はないが、18頁で「erfinden」の訳が重要になるので、ここで指摘しておく。

 

p12

連想の連鎖は、つねに二つ以上の環から成り立っており、外傷的場面はたとえば真珠の首飾り様の単純な連関ではなく

連合の連鎖は、つねに二つ以上の環から成り立っており、外傷的な諸々の場面はたとえば真珠の首飾り様の単純な連関ではなく

 

決して一つの実際の体験だけから生ずるものではなく、つねにより早期の体験に関する記憶が連想作用によって呼び覚まされ、それが実際の体験と一緒に働いてヒステリー症状を生み出すのです

決して一つの現実的体験だけから生ずるものではなく、つねにより早期の体験に関する記憶が連合作用によって呼び覚まされ、それが一緒に働いてヒステリー症状を生み出すのです

 

分析によって明らかにされる連想記憶の連鎖をたどっていくと

分析によって明らかにされる連合的な記憶連鎖をたどっていくと

 

内容や生涯からみて

内容や生存期間からみて

ちょっとわかりにくいですが、「内容やその古さからみて」ということでしょうか。

 

p13

連想の中で相互につながり合っています

連合の中で相互に連鎖し合っています

 

その個々の環が再び主鎖の環と連想によって結びついているかもしれません

その個々の環が再び主鎖の環と連合によって結びついているかもしれません

 

個々の環が同一の連鎖の中で何度も想起されうるために

個々の環が同一の連鎖の中で何度も呼び覚まされうるために

 

この連想をさかのぼる環のほかに

この連鎖をさかのぼる環のほかに

 

そこでは個々の連想の連鎖が収斂して

そこでは個々の連合の連鎖が収斂して

 

p14

みなさんがこの上なくきびしい検査におかけになったとしても

みなさんがこの上なくきびしい検証におかけになったとしても

 

事情が許す場合には治療的成果によって

事情が許す場合には療法[=テラピー]上の成果によって

 

その中では性衝動の力の介入が

その中では性欲動の力の介入が

 

p15

しかしその他の点ではきわめて不揃いで価値もまちまちです

「きわめてきわめて不揃いで価値もまちまちです」には傍点を加える必要がある。

 

思春期になると正常者の場合には性がある種の役割を果たすようになるのですが、ヒステリー患者の場合には、この性に対する怖れの感情が病的にまで昂まり

思春期になると正常者の場合には性に対する怖れがある種の役割を果たすようになるのですが、ヒステリー患者の場合には、この性に対する怖れが病的にまで昂まり

原文は「性がある種の役割を果たす」「性に対する怖れがある種の役割を果たす」いずれにも解しうる。この直後の「この説では、もちろん男性のヒステリーがなおざりにされていますが」という箇所は、ここを「性に対する怖れ」と解しておかないと浮いてしまうと思うのでそちらを採用した。なお、この周辺で用いられる「性」の原語はSexualitaetである。

 

p16

しかも正常の器官感覚や性的興奮の徴候に属するものでもなかったことは確かです

しかも正常の器官感覚や性的高ぶりAufregungの徴候に属するものでもなかったことは確かです

 

以前に最初の外傷的場面からその背後の記憶連鎖へと導いてくれたあの有効な思いつきに従うべきではないか

以前に最初の外傷的場面からその背後の記憶連鎖へと導いてくれたあの有効な着想に従うべきではないか

「あの有効な着想」とは、10頁下段で「着想とは次のごとくです」として紹介されている考えかた、すなわち「もっと古い記憶へ遡るべき」という方針を指す。「思いつき」と訳してしまうと、11頁下段の後ろから4行目の「思いつき」(ここは原文では別の語「Erfindung」が用いられている)と混同されかねない。訳語の統一の重要性が痛感される箇所と思う。

 

これまで遺伝によっては説明できない素質のせいにせざるをえなかったものを

これまで遺伝によっては説明できない病前素因Praedispositionのせいにせざるをえなかったものを

 

人間の想起能力が許す限り遠く幼児期へとさかのぼるならば

人間の記憶能力が許す限り遠く幼児期へとさかのぼるならば

 

p18

患者の方が故意に作りだしたことや勝手な空想を物語って

患者の方が故意にでっち上げたことErfindungや勝手な空想を物語って

もとの訳文でも意味的にはとくに問題ないが、このErfindungなる語が下段3行目に再度登場し、対応しているので指摘する。

 

これらの場面がこの上なく思い出すのが嫌な苦痛に満ちた現実とは

これらの場面がこの上なく想起するのが嫌な、苦痛に満ちて感じられる現実とは

 

彼らは治療のもつきわめて強い強制力を受けて

彼らは手当てBehandlungのもつきわめて強い強制力を受けて

 

極度の激しい精神的ショックを受けて苦しみ

極度の体感Sensationを受けて苦しみ

 

われわれに確信を与えるような態度で連想をやり終えた後で

われわれに確信を与えるような態度でこの体験を再び味わい抜いた後で

 

この場合には思い出したという感情がわいてこないのはおかしい

この場合には記憶[にあるという]感情がわいてこないのはおかしい

 

さて、この後者の態度は絶対に首肯するにたるもののように思われます。患者たちは、価値をなくしてしまいたいと思うようなことがらを、自ら何らかの動機にもとづいて発見したのに、なぜそれに対する不信感をあれほど決定的な口調で述べたてるのでしょうか。

さて、この後者の態度は絶対に証明力のあるもののように思われます。患者たちが、価値をなくしてしまいたいと思うようなことがらを、自ら何らかの動機にもとづいてでっち上げたerfindenのだとしたら、彼らはなぜそれに対する不信感をあれほど決定的な口調で述べたてたりするのでしょうか。

最後は反語的疑問文です。

 

心に思い浮かべ再生するように暗示をかけるという点については

表象し再生するように暗示をかけるという点については

 

いまだかつて一度も私は、ある患者にこちらの期待通りの場面を想起するように強制して、しかも患者がその場面に属していたあらゆる感情をこめてその場面を体験するようにしむけることに、成功したことはないのです。他の場面なら、ひょっとしてうまくいくのかもしれませんが。

いまだかつて一度も私は、ある患者にこちらの期待通りの場面を強制して、患者がその場面に属していたあらゆる感覚とともにその場面を体験するようにしむけることに、成功したことはないのです。他の医師なら、ひょっとしてうまくいくのかもしれませんが。

 

つねに同形で反復される諸前提から生ずるものに違いありません

つねに同形で繰りかえされる諸前提から生ずるものに違いありません

 

p19

そうしないと驚愕しないではいられないからでしょうし

そうしないとぞっとentsetztせずにはいられないからでしょうし

 

患者が分析の強制のもとに幼児期の場面として記憶に再生したものは

患者が分析の強制のもとに幼児期の場面として再生したものは

 

神経症の連想による論理的構成にとって拒みがたい補足であることがわかります

神経症の連合的・論理的な組み立てにとって拒みがたい補足であることがわかります

 

幼児期の場面の真実性を証明する治療過程もまた

幼児期の場面の真実性についての療法上の証明もまた

 

完全ないしは部分的な治療成果が達成される場合がありますが

完全ないしは部分的な治癒Heil成果が達成される場合がありますが

五行あとの「治癒」と揃えた。

 

治療の内外の人物からの情報によって証明されるならば

手当てBehandlungの内外の人物からの報告によって証明されるならば

 

p20

さらに過去にさかのぼる性的関係を暗示する事実を

さらに過去にさかのぼる性的関係を裏付ける事実を

 

そのような性的な行為が子供たちにみだりに加えられたり

そのような性的ないたずらMissbraucheが子供たちにみだりに加えられたり

 

幼児期における性的誘惑やみだりな性的行為の場面を思い出しながら

幼児期における性的誘惑や性的いたずらの場面を想起しながら

 

子供たちが性的攻撃にさらされているのは

子供たちが性的襲撃Angriffenにさらされているのは

ここを除き「攻撃」はAggressionの訳。

 

乳児に対してさえ乳母や子守女が性的ないたずらを加えることがある

乳児に対してさえ乳母や子守女が性的なたくらみPraktikenを加えることがある

 

p21

あるいは何回かにわたる間違った行為であって

あるいは何回かにわたるいたずらであって

 

恐怖が優勢を占めることになります

驚愕が優勢を占めることになります

 

つまり性の異なる二人の子供

つまり性別の異なる二人の子供

 

二人に後々まで消えない傷を残すことになります

二人に後々まで消えない帰結を残すことになります

 

性的体験が積み重なっているさまは

性的体験の頻繁さは

23頁上段9行目に合わせた。

 

私が全く生存が危ぶまれるほどの重症の神経症患者だけを治療しなければならなかった

私が全く生存が危ぶまれるほどの重症の神経症に罹患した症例だけを手当てしなければならなかった

 

幼い女の子に対して大人の女性を通して覚えたと同じ行為を繰りかえそうとしていましたし、しかも彼は、性的な行為のやり方については自分からは何の変更も加えようとしなかったらしいのです

幼い女の子に対して大人の女性を通して覚えたと同じたくらみを反復しようとしていましたし、しかも彼は、性的な行為のやり方については自分からは何の修正も加えようとしなかったらしいのです

 

p22

互いに伝達しあうことになります

互いに転移しあうことになります

ここは分析家と患者の間の「転移」を指すわけではないのはもちろんだが、フロイトがそれと同じ語をより広い意味で用いている箇所について知ることは、精神分析で用いられる特殊な意味での「転移」概念についての理解も深めるものと思う。

 

幼児期において伝達ないし伝染が起こったというのが本当なのですから

幼児期において転移ないし伝染が起こったというのが本当なのですから

 

多くの人々がそのような場面を記憶していながらも

多くの人々がそのような場面を想起していながらも

 

この菌の特殊効果である結核を発生させるためには

この菌の特異的効果である結核を発生させるためには

 

特殊な病因としての評価を確立するためには

特異的な病因としての評価を確立するためには

 

しかし天然痘患者からの伝染が

しかし天然痘患者からの転移が

 

ヒステリー患者の過去の生活史の中に

ヒステリー患者のアナムネーゼ[=病歴聴取]の中に

22頁最終行の「病歴Krankengeschichte」とは区別が必要である。

 

連想による論理的な結合のあることが証明される点にもとづいています

連合的および論理的な紐帯Bandのあることが証明される点にもとづいています

「Band」はp27上段の「目に見えない絆で」の部分にも用いられている。

 

p23

ヒステリーの<特殊な病因>がほかに必要とする他の契機とは何でしょうか

ヒステリーの<特異的な病因>がほかに必要とする他の契機とは何でしょうか

 

特殊な病因と補助的な病因

特異的な病因と補助的な病因

 

ヒステリーの突発はほとんどきまって心理的葛藤に起因しており

ヒステリーの突発はほとんどきまって心的葛藤に起因しており

 

自我にとって苦痛な記憶を実際に無意識の領域へと押しこんで

自我にとって苦痛な記憶を実際に無意識内へと押しこんで

 

しかも抑圧されるべき観念が論理的ないし連想的に幼児期の無意識的体験と関連づけられる可能性がある場合に

しかも抑圧されるべき表象が論理的ないし連想的に幼児期の体験と関連づけられる可能性がある場合に

これ以外の箇所の「観念」もすべて「表象」に変更。観念という訳語の困ったところは、18頁に登場した「表象する」という動詞の訳が困難なことである。

 

ヒステリーが下層階級の間でその特殊的病因から予想されるよりもはるかに稀にしか認められない事実に対しては

ヒステリーが下層階級の間でその特異的病因から予想されるよりもはるかに稀にしか認められない事実に対しては

 

p24

これらの記憶は決して意識されたものではありません

これらの記憶は決して意識的なものではありません

 

意識的記憶に転換してやることで

意識的記憶に変貌させてやることで

 

無意識のうちに活動している記憶の後裔である

無意識的に作用している記憶の派生物Abkoemlingである

 

一つの無意識的記憶と論理的または連想的に結合していることを示すに違いないこと

一つの無意識的記憶と論理的または連合的に結合していることを示すに違いないこと

 

防衛のような心的過程を発動して病的な結果を生み出すのに

防衛などの心的事象を病的な結果へと導くのに

 

症状発生の契機となる後年の場面は

症状が成立する場となる

 

p26

すべてのヒステリー症例は、その決定因が幼児期の体験ではなく、もっと後年の、しばしば最近の体験に由来するような症状を示すということです

すべてのヒステリー症例が示す症状の決定因は、幼児期の体験ではなく、もっと後年の、しばしば最近の体験に由来するということです

 

何よりもまず性器や他の身体部分における無数かつ多様な感覚と知覚異常であって

何よりもまず性器や他の身体部分における無数かつ多様な体感Sensationと知覚異常であって

 

排便時の刺激感

排便時の体感Sensation

 

同種の幼児期体験の派生物と認められ

24頁で「Abkoemling」を「派生物」と訳したが、ここは「Derivat」。意味的に区別する必要はなさそうに思うが、あえて区別するならこちらを「デリバティヴ」とか「派生体」とでもするしかないかもしれない。

p27

まだ準備もできていないのにあらゆる敏感な感覚を目覚まさせられ

まだ準備もできていないのにあらゆる敏感さを目覚めさせられ

「Empfindlichkeiten敏感さ」は28頁最終行に合わせた。

 

子供が自分の足で大人の性器を刺激するように仕込まれたという事情のために

子供が自分の足で大人の性器を興奮させるよう仕込まれたという事情のために

「興奮させる」はp27上段6行目「興奮をひき起こす」や下段13行目「興奮を生じさせる」と同じ語である。それらの箇所では直後に「刺激Reiz」が用いられているためか、正しく「興奮」と訳しわけられている。

p28

さまざまの側面から同時に呼び覚まされたいくつかの契機が共同してある観念を掘り起こし、その観念が症状形成のために選ばれることを認めなければならないでしょう

さまざまの側面から同時に呼び覚まされ、いくつかの契機が共同して引き立てられたある表象が、症状形成のために選ばれることを認めなければならないでしょう

「Hebung」には「掘り起こす」という意味も確かにあるが、ここでは複数の方向からの強化で「高める」「引き立てる」といった意味であろう。

 

ヒステリー性の症状は重複決定されている

ヒステリー性の症状は重層決定されている

 

われわれはこの刺激に対する異常な過敏性を仮定して済まそうとしたり

われわれは全般的な異常な易刺激性を仮定して済まそうとしたり

p29上段21行目も参照。

 

刺激の伝達作用をもつある脳器官が

転移をつかさどるある脳器官が

 

その反応の生ずる契機のほんの一部しか知らないために

その反応の生ずる動機Motivのほんの一部しか知らないために

29頁下段「動機」に合わせた。

 

興奮を生じさせる刺激と平衡関係にあり

興奮させる刺激と比例関係にあり

 

患者の意識している明白な契機のほかに、患者がそれと知らぬ間に活動しているために

患者にとって意識的な明白な動機Motivのほかに、患者がそれと知らぬ間に作用しているために

 

p29

軽視しているそぶりがわずかに認められても、まるで致命的な侮辱を受けたように過敏に反応します

軽視しているそぶりがわずかにほのめかされても、まるで致命的な侮辱を受けたように反応します

 

これと同じ考え方をヒステリー患者に適用してみてください

これと同じ考え方をヒステリー患者に転移してみてください

 

それ自体些細な最近の嫌な体験ではありません。そう考えるのは、原因と結果の平衡関係についての命題を無視したことになります。むしろこのちょっとした現実の嫌な体験が、昔体験した多くの深い心の傷を目覚めさせ、活動させるのであって、これらすべての心の傷の背後には、さらに重大で消し去りようのない幼児期の苦痛な体験が隠れているのです。

それ自体些細な最近の辱めKraenkungではありません。そう考えるのは、原因と結果の比例関係についての命題を無視したことになります。むしろこのちょっとした当座の辱めが、より古い多くの深いいくつもの辱めを目覚めさせ、作用させるのであって、これらすべての辱めの背後には、さらに重大で消し去りようのない幼児期のある辱めが隠れているのです。

 

この娘が異常で常軌を逸した性格をもち、過度に敏感な人物なんだと判断して

この娘が異常で常軌を逸した素質をもち、過敏hypersensitivな人物なんだと判断して

 

彼女の自己非難は本来この古い契機に向けられていたのだ

彼女の非難は本来この古いきっかけに向けられていたのだ

「きっかけAnlass」は29頁上段の4行目と7行目に合わせた。7頁上下段や17頁上段、22頁上段、23頁上段、28頁上段2行目、30頁下段、31頁上段の訳語「契機」は「Moment」の、28頁下段で登場する訳語「契機」は「Motiv」の、それぞれ訳である。さらにこの「Motiv」は、29頁下段では「動機」とも訳されている。

 

もしみなさんが一つの札つきの箇所に触れると、思いもかけないことをしたことになり、痙攣発作を引き起こしかねない記憶を呼び覚ます結果になるのですが

もしみなさんがひとつの際立った箇所に接触すると、思いもかけないことをしたことになる、すなわち痙攣発作を引き起こしかねない記憶を呼び覚ます結果になるのですが

 

生じてきた痙攣発作を、自分が触ったせいだとすぐに考えてしまうのです

作用としての発作と、原因としての接触とを直接に関連づけてしまうのです

 

最後に意識された契機と

最後の意識的なきっかけと

 

p30

新たな興奮が起こってきた時に、ずっと昔に過ぎ去ったすべての興奮が、再び一緒に活動し出すことはないが

新たな興奮が当座にある時に、ずっと昔に過ぎ去ったすべての興奮が、再び一緒に作用し出すことはないが

 

現実の契機が生じた際には

当座のきっかけが生じた際には

 

現実の印象を無力な記憶に変化させる処理の困難さや

当座の印象を無力な記憶に変貌させる処理の困難さや

 

最後に当たって、一つだけお伝えしておくとすれば、われわれの必要のためにまず作り出さなければならない心理学 −将来の神経症心理学− に、みなさんも注意を払っていただかなくてはなりません。この私の話からみなさんは、さしあたってヒステリーの原因についての初歩的理解の妨げになっているものを取り除くことができるでしょう。

私が最後に当たってこれからお伝えする報告からみなさんは、ヒステリーの原因についての初歩的理解のさしあたり妨げとなる事柄をお知りになるでしょうが、それについても私はみなさんに、上に述べた、われわれの必要のためにまず作り出さなければならない心理学 −将来の神経症心理学− を参照していただかなくてはなりません。

ここの「神経症心理学」には傍点を加える必要がある。

 

多くはいろんな感覚や疼痛が認められ

多くはいろんな体感や疼痛が認められ

 

p31

病因的関係の特殊性が放棄されるために

病因的関係の特異性が揚棄されるために

 

必ず幼児期の性的攻撃が原因で生じた非難が偽装され変形されて現れてきたものであることが暴露されること

必ず幼児期の性的攻撃が原因で生じた非難が偽装され変貌して現れてきたものであることが暴露されること

はっきり書かれていませんが、ここは「自らが行った性的攻撃」という意味でしょう。

 

欲望を伴って経験されたにせよ

快楽欲Lustを伴って経験されたにせよ

 

このブロイアーのやり方を変更した方法が

このブロイアーのやり方を修正した方法が

2005年10月28日作成