フロイト著作集第5巻

ざっとみた範囲での翻訳正誤表

『性欲論三篇』

p23上段

口腔粘膜や肛門粘膜のように繰りかえしこういう実際行為に利用されるものと同様に、ある種の身体部位はみずから性器とみなされ

口腔粘膜や肛門粘膜のような、繰りかえしこういう実際行為に利用されるある種の身体部位は、みずから性器とみなされ

 

p24上段

物神が特定の人物から離れて、唯一の性目標となるような場合である。

フェティッシュが特定の人物から離れて、唯一の性対象となるような場合である。

 

p26下段

私は第一次的な −性に起源を持つ− マゾヒズムを認め

私は第一次的な −催情的な− マゾヒズムを認め

 

p28上段

若干の心的な欲求がひょっとしたら、一つの効果と一致しているのかもしれない

いくつもの心的な志向がひょっとしたら一つの効果へと合一しているのかもしれない

 

p31上段

それが固着した以前に正常な性愛発達という付加物があった

それが固着した以前には正常な性愛発達の萌芽があった

 

p32上段

情動がはばをきかせている

情動備給されている

このページに二箇所ある

 

p32上段

身体的な現象のなかで −つまりヒステリーの症候そのもののなかで− 起こる転位の過程を通して

身体的な現象のなかで −つまりヒステリーの症候そのもののなかで− 起こる転換という事象を通して

 

p35上段

欲動はそれ自身いかなる性質をも持たず、心的生活に対する作業促進の尺度として問題になるに過ぎない

欲動はそれ自身いかなる性質をも持たず、心的生活に対する作業課題の大きさとして問題になるに過ぎない

 

p35下段

口腔および肛門に性的な意味を持たせようとするインヴァージオンでは

口腔および肛門に性的な意味を持たせようとするパーヴァージオンの傾向では

 

p36上段

性感帯とは関係がないようにみえる衝撃の意義が、いっそう目立っている。

性感帯とは関係がないようにみえる衝動の意義が、いっそう目立っている。

 

p37上段

リビドーはその主流の河床が移しかえられる川の流れのような態度をとる。

リビドーはその主流の河床がふさがれた川の流れのような態度をとる。

 

 

p41

意識的な処置を逃れているおびただしい記憶の痕跡を持っていて、抑圧という反発する力が意識面から作用をおよぼしているものを、それら記憶の痕跡が連想的な結合によって自分の方へ引き寄せる

意識的な使用を逃れているおびただしい記憶痕跡を持っていて、それらは、意識的なものの側から抑圧の反発力の作用を受けているものを、連合的な拘束によって自分の方へ引き寄せる

 

p42

その時までは意識にのぼらなかった神経症者の小児期の記憶が

その時まで無意識的であった神経症者の小児期の記憶が

 

圧迫の力によって

禁圧によって

 

この圧迫する力そのものがまた

この禁圧そのものがまた

 

p43

小児の性的興奮はそれゆえに反対勢力(反動欲動)をよび起こすのだが、この反対勢力がこういう不快感を有効に圧迫するために

小児の性的な動きはそれゆえに反力(反動の動き)をよび起こすのだが、この反力はこういう不快感を有効に禁圧するために

 

性的発動力の昇華

性的欲動力の昇華

 

p47

小児の性的表出は生きてゆく上に必要な身体機能の一つに依存して生じてくるものなのだが

小児の性的表出は生きてゆく上に必要な身体機能の一つに依託〈=便乗〉して生じてくるものなのだが

 

p48

中枢からの制約を受けながら末梢の性感帯に投影されているむずがゆい感じ

中枢に由来し、末梢の性感帯に投影されているむずがゆい感じ

 

p49

重要な問題はもはやない

重要な問題はもはやさほど多くない

 

性愛を身体の他の機能に依存させる媒介をするのに適している

性愛を身体の他の機能に依託〈=便乗〉させる媒介をするのに適している

 

p50

大便をおさえているので

大便を抑留しているので

 

糞便を抑制することは

糞便を抑留することは

 

p51

中枢の制約をうけたり

中枢に条件づけられたり

 

p52

かつて手淫の禁圧を我慢したことの影響を示す

かつて克服された、手淫の禁止の影響を示す

 

もういちど新たな抑圧をうけるまで

もういちど新たな禁圧をうけるまで

 

無意識の心理的な要素

無意識的な心的要素

 

p54

なんの欲求をもしめしていない性的対象を

なんの欲求も向けられていない性的対象を

 

p55

悩ましい欲動となって存続し

悩ましい衝迫となって存続し

 

占有欲動を停止させる抑制作用、つまり同情する能力

占有欲動を停止させる規制、つまり同苦する能力

 

思いやりという制約に欠けていると、残忍性と性欲動とが幼年時代に結びついてしまい

同苦という防壁に欠けていると、残忍性の欲動と催情的な欲動とが幼年時代に結びついてしまい

 

p56

知識欲

知識欲動

 

p57

サディズム的なものに変移させる素質

サディズム的なものに移動させる素質

 

p59

占有衝動によって

占有欲動によって

 

p60

退行させられる

退化させられる

 

p61

古い性的活動がひそんでいる

古い性的志向がひそんでいる

 

いっさいの熱望をただ一つの対象に統合しよう

いっさいの欲望をただ一つの対象に統合しよう

 

p62

子供にとっては筋肉の能動的な十分な活動が必要であり、その必要を満たすことによって子供が非常な快感を覚える

子供にとって、筋肉の能動的な十分な活動はひとつの欲求であり、つまりそれを満たすことによって子供は非常な快感を覚える

 

p63

神経症的な歩行障害や不安Raumangst

神経症性の歩行障害や広場の不安

 

感動の諸過程

情動の諸過程

 

芽生えつつある性欲

芽生えつつある性愛

 

p64

性的興奮を惹き起こすものである

性的な付随的興奮を惹き起こすものである

 

感じやすい表面 −皮膚や感覚器− であり

敏感な表面 −皮膚や感覚器官− の興奮であり

 

p65

性欲の昇華が行われる

性愛の昇華が行われる

 

p67

このような感情が、心的状況の変化を求める欲動をともなっており、知覚された快感とは本質的にまったく関係のない駆動的な作用を果たすものであるということは、私には決定的なことに思われるのである。

私には次のことが決定的なことに思われる。つまり、このような感情は心的状況の変化を求める衝迫をともなっており、駆動的〈=欲動的treibend〉な作用を果たすものである。これは感じられた快感の本質的とはまったく関係がない。

 

p69

完全な充足による快感であって

完全な満足〈=解消〉による快感であって

この付近での「充足」は全て同様。

 

p70

性の過程のうちの準備的な行為における停滞をその特徴とする多くのメカニズムは、事実このような種類のものなのである。

性的事象の準備的行為における停滞をその特徴とする多くの倒錯のメカニズムは、事実このような種類のものなのである。

 

性的緊張の知覚をさす(私は気持ちがいい=私は欲動をほしがっており、それを感じている)

性的緊張の感覚をさす(私は快感を抱いているIch habe Lust=私はしたい、私は衝迫を感じているIch moechte, ich verspuere den Drang)

p71

性的緊張は、性的産出物の貯蔵所に貯えられた精液の機能である

性的緊張は、性的産出物の貯蔵所内の精液貯留の関数である

 

p73

あらゆる身体器官によって惹き起こされる

あらゆる身体器官から供給される

 

性的対象を占有する

性的対象に備給する

 

p74

対象の占有物がそこから送りだされ

対象備給がそこから送りだされ

 

自我のナルシシズム的なリビドー占拠は

自我のナルシシズム的なリビドー備給は

 

p75

性愛の抑圧(羞恥、嫌悪、同情など)

性愛の抑制(羞恥、嫌悪、同苦など)

 

p76

性的制御の強化は、やがて男性のリビドーに対する刺激となり、どうしてもその働きを高めざるをえなくさせる。つまり、リビドーが高まるとともに、次には性愛の過大評価も高まってゆくのだが、これは自己否定的な、自己の性愛を拒否する女性にしか完全にあてはまらないものなのである。

性的規制の強化は、やがて男性のリビドーに対する刺激〈=魅力〉となり、男性のリビドーの働きの昂進を余儀なくさせる。つまり、リビドーが高まるとともに、次には性的過大評価も昂進するの。この性的過大評価を完全に手に入れるのは、拒絶的な、自己の性愛を否認する女性だけである。

 

p77

男性的なものを排除するような抑圧の推進

男性的なものを取りのけるような抑圧の推進

 

対象の発見には三つの道があり、第一は本文中で論じたような、小児期の手本に依存して進むものであり

対象の発見には二つの道があり、第一は本文中で論じたような、小児期の手本に依託〈=便乗〉して進むものであり

 

自分のいろいろな要求を

自分のいろいろな欲求を

 

こまやかな感情

情愛的な感情

 

p80

近親相姦の防壁

はじめの段落の冒頭にこの見出しを補足

いわば禁圧されたリビドーを

いわば弱体化されたリビドーを

 

この制限を重んじることは

この防壁を重んじることは

 

防衛しなければならないのであるが

防止しなければならないのであるが

 

p80

性的興奮、すなわち母親に対する男児の、また父親に対する女児の性的興奮なのである

性的な動き、すなわち母親に対する男児の、また父親に対する女児の性的な動きなのである

 

p81

明らかに近親姦的な空想を克服し放棄すると同時に

明らかに近親姦的な空想を克服し排除すると同時に

 

無意識のうちに保持されている

無意識的に保持されている

 

これらの夢は、覚醒時の生活の名残である昼の刺激 −昼の名残− の影響をうけたり、またこれに依存したりしながら

これらの夢は、覚醒時の生活の名残である昼の刺激 −昼の名残− の影響をうけたり、またこれに依託〈=便乗〉したりしながら

 

p82

過大な情愛への要求と、性生活の現実の要求

過大な情愛欲求と、性生活の現実的要求

 

無意識の思想を

無意識的思想を

 

真剣な愛慕の情が

真剣な惚れ込みが

 

このような原型にかなり自由に依存しながら

このような原型にもっと自由に依託〈=便乗〉しながら

 

p83

性対象の永続的な倒錯を防ぐ

永続的なインヴァージオン〈=性対象倒錯〉を防衛する

 

性対象倒錯を排除するのに十分でない

インヴァージオン〈=性対象倒錯〉を除外するのに十分でない

 

p85

成人の性欲動は、小児の生活におけるさまざまな興奮が総括されて一つの統一体となり、唯一の目標に向かう欲求となったものである

成人の性欲動は、小児の生活におけるさまざまな動きが総括されて一つの統一体となり、唯一の目標に向かう志向となったものである

 

主流の河床が位置をかえたために

主流の河床がふさがれたために

 

小児期にも性欲動のあることが否認され

小児期にも性欲動のあることが棄却され

 

p86

性愛の流れの別の系路が移転したために

性愛の流れの別の軌道がふさがれたために

 

p88

近親姦を制限する枠のために

近親姦の防壁のために

 

激しい心的な愛の激情の爆発によって

激しい心的な愛の動きの突破によって

 

p89

女性の構成員は性の抑圧に対応する消極的なパーヴァージオン

女性の構成員はその性の抑圧傾向に対応する陰性の〈=ネガティヴな〉パーヴァージオン

神経症は倒錯のネガである、という命題と対応している。なお、この頁の「能動的」は全て「陽性の〈=ポジティヴな〉」。

 

思春期にはまず正常な性愛の流れが現れるのだが、これがしかし内部的な弱さのために、最初の障害に会うやいなや破綻をきたしてしまい、やがては退行から切りはなされて性目標倒錯的な固着となるのである。

思春期には、まず正常な性的流れが据え付けられているのだが、これがしかし内的な弱さのために、最初の外的な障害に会うやいなや崩壊してしまい、やがては性目標倒錯的な固着への退行と入れ代わるのである。

 

p90

反動形成による抑圧

反動形成による禁圧

 

p91

利用不能と認められた激情を有効に禁圧する使命を負わされている構成体などによって合成されている

利用不能と認められた動きを有効に鎮圧する使命を負わされている構築物などによって合成されている

 

優しくしてもらいたいという飽くことのない要求

飽くことのない情愛欲求

 

性愛の発散

性愛の解放〈=脱拘束〉

 

p92

その半面では、驚くほどすみやかに経過してしまうというのも、よくあることである。とくに強力に現れてくる欲動の動きが、たとえば後年の顕在的な同性愛者に認められる異性愛的な愛着のように、小児期にいろいろの欲求が激しくあらわれたからといって、それが成人してからの性格を持続的に支配するようになるであろう、という恐れが正当化されるわけではない。そのような欲求が消え去って

その半面では、とくに強力に現れてくる欲動の動きは、しばしばあわただしく速やかな経過をとる。たとえば後年の顕在的な同性愛者の、異性愛的な拘束がそうである。小児期にいろいろの志向が激しくあらわれたからといって、それが成人してからの性格を持続的に支配するようになるであろう、という恐れが正当化されるわけではない。そのような志向が消え去って

2000年5月13日作成/2000年6月3日増補