フロイト著作集第５巻１３９頁
「女性のセクシュアリティについて」
ざっとみた範囲での翻訳正誤表
１章の翻訳正誤表
ｐ１３９
女性の性愛Sexualitaet について
Sexualitaetの訳語は、Erosの訳語と区別するため、セクシュアリティがよいのではないかと思われるが、この論文にはErosという語が登場しないので、今後すべてを指摘することはしない。
情愛深く執着するのに
情愛的に愛着するのに
この論文で「愛着（する）」と訳されているのは全てBinden（Bindung）であるが、例えば母親との愛憎入り交じったアンビヴァレントな関係をも指すことを考えると、「愛」という語を含まない訳語、たとえば「拘束」という訳語の方が適切と思われる。
男児の情愛のこもった志向が
男児の惚れ込みの志向が
私はここに報告するような女性についていくつかの観察をしたことがあるが、彼女たちは私が婦人の性愛についていくらかでも理解をもつようにしてくれたのである。
私はそのような女性についていくつかの観察をしたことがあり、ここに報告しよう。彼女たちは私が婦人のセクシュアリティについていくらかでも理解をもつようにしてくれたのである。
ｐ１４０
この第二期は対象の変換がくるまでのあいだに、愛情の生活に対して何ら新しい特質を付け加えてはいなかった。
この第二期は、対象の交替という点を除けば、愛情の生活に対して何ら新しい特質を付け加えてはいなかった。
男性への正しい転換をとげないでしまう
男性への正しい向き直りをとげないでしまう
女性が正常なエディプス状況に達するのは、ある受動的なコンプレクスに支配されている原始期を克服してからである
女性が正常な陽性のエディプス状況に達するのは、ある陰性のコンプレクスに支配されている原始期を克服してからである
男性と女性の性愛の発展が
男性と女性の性的発達が
ｐ１４１
双方ともが女性の特殊な性格に属していること
双方ともが女性らしさの特殊な諸性格に［そのひとつとして］含まれること
きまっておそわれる不安
きまって見出される不安
投げかけのメカニズムが
投影のメカニズムが
２章の翻訳正誤表
ｐ１４２
男性のペニスに類似した陰核
男性の陰茎に類似した陰核
思春期になってはじめて感覚をそなえるようになる
思春期になってはじめて感覚を供給するようになる
すなわち小児期において性欲の主導的地位にたつものは、女性の場合には陰核においていとなまれるのにちがいない
すなわち小児期における性器活動Genitalitaetにおいて起こることは、女性の場合には陰核においていとなまれるのにちがいない
ｐ１４３
父親という法廷が内面化されて超自我となったのちに解かれなければならない課題は、この後者をもともと心的に代表してきた人物からこれを解放するということである。
父の審級が内面化されて超自我となったのちに解かれなければならない課題は、この後者がもともと心的に代表してきた人物たちからこれを解放するということである。
第一は性愛からすべて遠ざかるとことまでゆくものである
第一はセクシュアリティからの全般的な離反に向かう
その男根期的な活動を拒否するようになり、ちょうど他の領域にある自分の男らしさの大部分を否むのと同様に、性愛一般を拒否するようになる
そのファルス的な活動を断念し、さらにセクシュアリティ一般や、他の領域にある自分の男らしさの大部分をも断念する
「男性コンプレックス」
「男性性コンプレックス」
「男性性」はそれ以外の箇所で「男らしさ」と訳されているのと同一の語
ｐ１４４
男性の場合にはこれに破壊的な作用をおよぼすあの敵意のこもった強い影響からもまぬがれている
男性の場合これ［＝エディプス・コンプレックス］に破壊的な作用をおよぼす［エディプス・コンプレックスにとって］敵対的な影響からも、まぬがれている
女性を低く見たり圧迫したり
女性を蔑んだり禁圧したり
反対者は女性の性というものを認めようとしないことを、自分なりに自明のことと考えているのであろうが、それは男性と同等であろうとする強い願望とそれが矛盾するように思われるからなのだ
反対者たちは自分たちなりに当然と考えているのであろうが、女という性は、男との同列視を強く欲望しこれに矛盾するように思えるものを受け入れたがらないのである。
女性の性生活の多くの現れは
女性の性生活の多くの現象は
母対象から父対象への情愛のこもった愛着の写しかえこそは
母対象から父対象への情動的愛着の転記ueberschreibenこそは
ｐ１４５
これほど強く独占的に
これほど強く排他的に
宣告を受けているのである
断罪を受けているという性格である
目標の達成が阻まれている愛情関係の場合と同様に、リビドーの割り当てが
目標を制止された愛情関係の場合と同様に、リビドー備給が
発達にともなう諸過程の圧迫を
発達にともなう諸事象の衝迫を
反抗的に男らしさを強調する方向
反抗的に男らしさを過剰強調する方向
固有の男根期に属する活動の状態は、それが発見されるにしても、されないにしても、また発見されたのちにどの程度の障害をこうむるにしても、いずれは観察の対象になるのである
［女性に］固有のファルス的活動の状態は、それが発見されるにしても、されないにしても、また発見されたのちにどの程度の阻止をこうむるにしても、やはり問題となるのである
ｐ１４６
男根期に固有の活動
［女性に］固有のファルス的活動
自分の意のままにしよう
自分に依存させよう
それをやめさせる
それを放棄させる
小児が手淫を抑えることに
小児が手淫を禁圧することに
男児をも母親から離反させるようなある強い動機を
男児にも母親への反抗心のある強い動機を
ｐ１４７
このような否定的な特徴が
このようなネガティヴな特徴が
女性であるということの
女性性の
記憶するのに都合のいいように変形されたりする
記憶のために歪曲されたりする
自慰的な行動に対する罰として
自慰的な活動に対する罰として
ｐ１４８
一度も愛の期待をすべてみたしてやったことがないとか
一度も愛の期待をすべて充足してやったことがないとか
母親が性の活動をはじめには刺激しておきながら
母親が固有の性的活動をはじめには誘発しておきながら
これらはいずれも究極の敵意を
これらはいずれも最終的な敵意を
他のものは自分には理解できなかった感情の変化に合理化の装いをほどこしたものにすぎないようにみえる
他のものは、理解できなかった感情の変化に、後年のようにきちんとした合理化をすることから得られているようにみえる
しかも非常に強い恋愛によって
しかも非常に強い惚れ込みによって
アンビヴァレンツが感情のわりふりにとって
アンビヴァレンツが感情備給にとって
正常な人間や成人にとっては
正常な成人にとっては
母親から離れてゆくように仕向けられるのであって、したがってこれもまた、小児期性愛の
母親から離反するように衝迫されるのであって、したがってこれもまた、小児期のセクシュアリティの
ｐ１４９
それは男児たちは自分の反抗的な感情を
それは男児たちは自分の敵対的な感情を
男児たちのエディプス前期を
男児たちの前エディプス期を
３章翻訳正誤表
ｐ１４９
ひたすら母親に
排他的に母親に
能動性と受動性との関係が
能動性と受動性との比Verhaeltnisが
以前に自分がされたりさせられたりしたこと
以前に自分がされたり一緒にさせられたりしたこと
苦痛な内容をもっているために小児がそれを避けるきっかけをもつこともできたであろうような印象を
苦痛な内容をもっているために小児が避けねばならないような印象を
ｐ１５０
お手洗いにゆくようにしたり
お手洗いにゆくように促したり
しかしここに現れているのは女性の能動性なのである
しかしここに現れているのは女性性の能動性なのである
女児の大変意外な性的な積極性は、時間的な順序にしたがえば口愛期、サディズム期、そして最後には男根期というふうに母親に向けられた志向として現れる
女児の大変意外な性的な能動性は、時間的な順序にしたがえば口愛的志向、サディズム的志向、そして最後にはファルス的志向、というふうに母親に向けられた諸々の志向として表出する
欲動の暗い動きなのであって、そのためにそれはまずおくればせに注釈がほどこされ
欲動の暗い動きだからなのであって、そのためにそれはまず事後的に解釈がほどこされ
ｐ１５１
小児が推測しているような母親の無意識の敵意によるものであるかは
小児が察知する母親の無意識的敵意に便乗〈結託？anlehnen〉するものであるかは
ブルンスヴィッグの注目によって
ブルンスヴィッグの考察によって
強い受動的な刺激は攻撃欲の応酬をうけるのであって
強い受動的な刺激は攻撃欲の発現という応答をうけるのであって
圧迫されたために不安となって
禁圧されたために不安となって
男根期の受動的な感情の動き
ファルス期の受動的な〈欲動の〉動き
またはその代理のひと、養育者など
またはその代理となる養育者など
ｐ１５２
性生活に誘い入れたという点も父親の方に移しかえられたのである
性生活に誘い入れたという点も父親に転記ueberschreibenされたのである
そのさいにはおそらく母親が思い浮かべられているのであろうが、しかしそれが子どもに性目標という表象を持たせることになるのかどうか
そのさいにはおそらく母親が表象されているのであろうが、しかしそれが子どもに性目標の表象を持たせることになるのかどうか
その挙動もまた同じことなのである
その挙動もまた〈男児と〉同じなのである
この離反と手をたずさえて能動的な性愛活動の強い低下と、受動的な性愛活動の亢進が
この離反と手をたずさえて能動的な性的な〈欲動の〉動きの強い低下と、受動的な性的な〈欲動の〉動きの亢進が
能動的志向はそれだけ強い拒否に
能動的志向は〈受動的志向よりも〉さらに強い頓挫に
かなりの部分が永続的な障害をうける
かなりの部分が永続的な傷害をうける
父対象への移行は、受動的な志向が瓦解しないかぎりは、その助けによって成就される。女らしさの発達に至る道は、克服された前エディプス期的な母親への愛着の名残によって狭められていないかぎりは、いまは女児の自由にまかされているのである。
父対象への移行は、受動的な諸志向の助けによって成就されるが、ただしそうなるのは、受動的な諸志向が瓦解してしまわない場合に限られる。女らしさの発達に至る道はこの場合女児に開放されるが、ただしそうなるのは、克服された前エディプス的な母親への愛着の名残によって狭められていない場合に限られる。
さて女性の性愛の発達について
さて女性の性的発達について
男児の場合と同じような
男児の場合と同一の
ｐ１５３
性愛の動きを
性的興奮を
まず容易に期待できるのは、生化学がいつかは、それがあれば男性的な性の動きを惹き起こすが、これは女性的な性の動きを惹き起こす、というようなある物質をわれわれに提出してくれるであろう、ということである。しかしこのような希望のほうが、今日では幸いなことに克服されてしまっているが、顕微鏡のもとでヒステリーや強迫神経症やメランコリーなどの病原体を別々にみつけようというもう一つの希望にくらべればまだ素朴ではない、などとは思えないのである。
まずすぐに思いつく予想としては、それがあれば男性的な性的興奮を惹き起こすという物質や、それとは別の、女性的な性的興奮を惹き起こす物質を、生化学がいつかわれわれに提出してくれるであろう、ということがある。しかしこのような希望が素朴なものであることは、顕微鏡のもとでヒステリーや強迫神経症やメランコリーなどの病原体を別々にみつけようという、今日では幸いなことに克服されたもう一つの希望と大差のない素朴なものにすぎない。
性愛の科学においても
性化学においても
つまり満足の仕方を心得ているリビドーがただ一つだけあれば、それで十分なのだということである
つまり満足の〈二つの〉仕方を心得ているただ一つのリビドーだけで済むということである
４章翻訳正誤表
ｐ１５３
小児が父親に幻滅を感じて
小児が父親に幻滅したため
生涯の間にある心的態度から別のそれへと繰り返し変転したりすることによって生じてくるような複雑な合併症状などもとりあげる
生涯の間にある構えから別の構えへと繰り返し変転したりする際に生じてくる錯綜した事態なども、とりあげる
ｐ１５４
男児と女児における前エディプス期の完全な一致が
男児と女児における前エディプス期の完全な同一性が
母親に対する女児の性愛的な（男根期の）活動が
母親に対する女児の性的な（ファルス的）能動性が
女児の男根期の活動や
女児のファルス的能動性や
父親への転向は
父親への向きなおりは
受動的な志向の途上で
受動的な志向の道筋の上で
女児の男根期の活動を父親との同一視として解釈していた
女児のファルス的能動性を父親との同一化として解釈していた
性器前期的前史について
前性器期的先史について
前エディプス期の不変な
前エディプス期からの不変な
中止したものであるか
歪曲されているものであるか
女児の男根期的な活動を
女児のファルス的能動性を
ｐ１５５
すでに二歳のはじめごろに
すでに人生の２年目のはじめごろに
前エディプス期的な
前エディプス的な
両親の相手を求めたりあるいはしりぞけたりするような振る舞い
両親による、心を惹き付けるあるいは拒絶するような振る舞い
小児の性愛の発達を
小児の性的発達を
二次的ペニス羨望に帰せられているが、このペニス羨望は女性的な感情の動き、とくに父親に対する女らしい愛着を防御するために用いられるものなのだ
二次的ペニス羨望に帰せられるべきであり、このペニス羨望は女性的な感情の動き、とくに父親に対する女性的愛着を、防衛するために用いられるものなのだ
男性コンプレックス
男性性コンプレックス
他のものはその強さをもっぱら防御に
他のものはその強さをもっぱら防衛に
ｐ１５６
女らしさへの防御が
女らしさへの防衛が
二次的な防衛反応だという
二次的な保護反応だという
２００４年８月２日作成
