フロイト著作集第９巻

翻訳正誤表（気づいたところだけ）

『転移性恋愛について』

　

いくつもの語に「治療」という訳が当てられているが、日本語で「治療」というと、「患者に働きかけて、病状が改善する（治る）」という二段階の両者を含意してしまう。単に患者への処置について述べられたことを、病状改善に役立つことのように読まれてしまうことは誤解を招きやすいので、Behandlungに「手当て」、Therapieに「療法」、Heilungに「治癒」、Technikに「技法」を当て、Kurについてのみ（この語にも「治す」という意味は希薄であるが、「kurieren」という動詞には「治す」という意味がありそうなので）「治療」を用いることとする。

　

ｐ１１５

最初に不安に思うことは、患者が自由連想法で思い浮かべたことの解釈

最初に案ずることは、患者の着想の解釈

　

自分を精神分析治療している分析医を好きになってしまったことを

自分を分析している医師に惚れ込んでしまったことを

単に「Arzt」という語が「分析医」と訳されているが、他の分野の医師と分析家を対比して述べているような文脈では両者を混同してしまいそうになるので、今後も著作集の訳文に「分析医」という訳語があれば、とくに指摘のない場合には「医師」と読み替えていただきたい。

「惚れ込みVerliebtheit」はｐ１２４下段の訳に統一した。なお、「Liebe」には「恋愛」「愛情」などいくつかの訳語が当てられているが指摘せずそのままにしてある。

　

他人の誤謬は非難しがちなわれわれにしても、必ずしもつねに全ての誤謬から解放されているわけではないから、われわれはその任務を果たすことをこれまで遅らせていたのである。われわれは、またしてもここで、医者としての慎重な態度を取るべきだという義務に直面するのである。

他人の誤謬を嘲笑しているわれわれにしても、必ずしもいつも勝手気ままというわけではないから、これまでその課題の遂行にはあえて突き進まなかった。ここでわれわれは再三にわたって、医師の慎みという義務に直面するからである。

　

ｐ１１６

われわれの科学ではそれだけですむというわけにはゆかないのである

われわれの科学では必要ないものである

　

この慎みについて簡単に論じて

この慎みを少々乗り越えて、

　

精神分析療法に対して

精神分析に対して

　

婦人患者が分析医を恋したという場合についていえば、帰結するところは二つしかないと考えられるであろう。

婦人患者が医師に惚れ込んだという場合についていえば、帰結するところは二つしかないと素人は考えるであろう。

　

病気の回復に役立てられるはずであった治療が

回復に役立てられるはずであった作業が

　

治療の継続と一致しうる

治療Kurの継続と一致しうる

　

できるだけはっきり分析医が断言する

できるだけはっきり分析家が断言する

　

ところが精神分析医の立場がこれらとは違ったものでなければならない

ところが精神分析家の立場がこれとは違ったものでなければならない

　

すなわち婦人患者が分析医を恋した後で

すなわち婦人患者が医師に惚れ込んだ後で

　

すなわち治療は放棄されるのである

すなわち治療Kurは放棄されるのである

　

また第二の分析医にも愛情を感じるようになるが

また第二の医師にも惚れ込みを感じるようになるが

　

やはり第三の分析医に恋愛する

やはり第三の医師に惚れ込む

　

ｐ１１７

一つは分析治療を行っている分析操作のために、そしてもう一つは分析治療を必要としている

一つは分析する医師のために、そしてもう一つは分析を必要としている

　

分析医にとってこれは、分析医が起こすおそれのある逆転移に対する貴重な解明であるとともによき戒めをも意味している

医師にとってこれは、医師が起こすおそれのある逆転移に対するよき戒めであるとともに貴重な解明をも意味している

　

婦人患者の恋愛は

婦人患者の惚れ込みは

　

したがって彼は分析治療以外の場合に

したがって彼は分析以外の場合に

　

精神分析治療を断念しなければならないか、それともこの分析医に対する愛着を不可避の運命として享受しなければならないか

精神分析の手当てを断念しなければならないか、それともこの医師に対する惚れ込みを不可避の運命として甘受しなければならないか

　

転移がこれとは違ったもっと感傷的でない感情で

転移がこれとは違ったもっと情愛的でない感情で

　

分析医は第二の場合に対して

分析する医師は第二の場合に対して

　

こういう場合には家族の感傷的な　−いやむしろ自分本位な

こういう場合には家族の情愛的な　−いやむしろエゴイスティックな

　

決定をくだすのはただ患者の関心のみで

決定をくだすのはただ患者の利益のみで

　

・家族の愛情は神経症を癒すことができるようなものではない。精神分析医は自分を押しつける

・家族の愛情は神経症を治癒させることができるようなものではない。精神分析家はうるさく押しかける

　

・しかし同時にある種の操作を行うためには

・しかし同時にある種の働きを行うためには

　

婦人科の処置の場合と同じである

婦人科の手当ての場合と同じである

　

分析治療以外の処置を受けさせればそのような医者に対する愛着は起こらなくなる

分析手当て以外の手当てを受けさせればそのような医師に対する惚れ込みは起こらなくなる

　

そのような恋愛（に備給されたリビドーの量）が、分析治療の場合には正しく操作されて患者を治癒に導く手段として活用されるが、婦人科の場合にはそのままにされてけっしてこのような寄与を果たすものではない

そのような惚れ込みが、分析の場合のようには、患者を回復させる手段として活用されるという寄与を果たすものではない

　

ｐ１１８

しばしば恋愛転移を起こすように準備を行い、分析治療が進展するためには、ただ患者が分析医に恋愛しさえすればよい

しばしば恋愛転移の現象を起こすように準備を行い、分析が進展するためには、ただ患者が医師に惚れ込みさえすればよい

　

そんなことをすれば、分析治療から患者の自発性という根本的な特徴を奪うことになるし、また分析医自身にとっても容易に除きがたい障害をわざわざ設けることになってしまう

そんなことをすれば、現象から、自発性という説得力を奪うことになるし、また容易に除きがたい障壁をわざわざ設けることになってしまう

　

転移に現れる恋愛の中から治療を促進するものが

転移に現れる惚れ込みの中から治療Kurを促進するものが

　

急に治療に対する理解と関心を失い

急に手当てに対する理解と関心を失い

　

それでも依然として分析の場を見失わず、事実上治療はこれで終わったのだ

それでも依然として分析状況を見失わず、実際に手当てはこれで終わったのだ

　

治療の継続を阻止しようとするものは

治療Kurの継続を妨害しようとするものは

　

感情的な転移の徴候を

情愛的な転移の徴候を

　

これらはたしかに彼女が分析医に対してそうした態度をとったということに帰することができた

これらはたしかに彼女が医師に対してそうした構えをとったということに帰するべきであった

　

それを恋愛の中に解消して

それを惚れ込みの中に解消して

　

辛うじて抑圧している部分

厳しく抑圧している部分

　

つまりこのような恋愛というものは

つまりこのような惚れ込みというものは

　

治療の継続を妨げ、すべての関心を治療から逸らさせ

治療Kurの継続を制止し、すべての関心を作業から逸らさせ

　

その一部は恋愛に関係しているが

その一部は惚れ込みに与しているが

　

ｐ１１９

・前者は婦人患者が何ものにももはやうごかされないという力を確保し、分析医を愛人に引き下げることでその権威を打破し、その他副次的な利得として、愛情満足に際して現れるものを得ようとすることである。抵抗についてわれわれは、

・前者は婦人患者が自らの抗しがたい魅力を確保しようとし、医師を愛人に引き下げることでその権威を打破しようとし、さらには、愛情満足に際していつでも副次的利得として待っているものをも目指し努力している。〈一方、〉抵抗については、

副次的利得とは性的快楽のことか。

　

厳格な分析医を

厳格な分析家を

　

もし万一この告白を分析医が受け入れるような場合には

もし万一彼が言いなりになるような場合には

　

・実際には、何よりも抵抗が原動力になってこの恋愛を高め、性的に身体を捧げる用意があるというところまで誇張され、このような放縦の危険を犯してまで、ますます強く他の何ものかを抑圧しきろうとする努力を正当化しようとしているのだ、という印象をわれわれは抱く

・しかし何よりも、抵抗が煽動分子agent provocateurになってこの惚れ込みを高め、性的に身体を捧げる用意を誇張して述べるのは、このような放縦の危険をひけらかして、ますます強く抑圧の努力を正当化するためだ、という印象が抱かれる

　

・これらすべての副作用が

・これらすべての副次物が

　

・この副作用の方を

・この副次物の方を

　

そしてまたむしろこの恋愛転移の操作を通して治療を継続しなければならない

そしてまたむしろこの恋愛転移の期間を通して治療Kurを継続しなければならない

　

分析医はこのような状況に

分析家はこのような状況に

　

分析医はけっしてどんなことがあっても彼に提供された愛情を受け入れたり、それに応じたりしてはならないと要請することは容易なことであろう

分析家はけっしてどんなことがあっても彼に提供された情愛を受け入れたり、それに報いerwidernたりしてはならないと要請することは私にとって容易なことであろう

「報いるerwidern」はｐ１２１上段１０行目の訳語に合わせた。

　

むしろわれわれは、恋愛している女性の前に

むしろ分析家は、惚れ込んでいる女性の前に

　

彼女がその欲望を棄てて

彼女がその希求Verlangenを棄てて

　

分析治療を継続してゆくようにさせる時がきたと考えることもできよう

分析作業を継続してゆくようにさせる時がきたと考えるはずであろう

　

道徳の規定をその治療本来のものに、すなわち、病気を治療しようという目的性と一致させることができないからである。

道徳の規定をその起源に、すなわち、〈道徳規定を定めることによって良い結果が得られるという〉合目的性に還元することができるからである。

　

分析技法上の配慮を取り上げる

分析技法上の配慮に置き換える

　

ただちにその本能の抑制、放棄、昇華を要求する態度を分析的ということはできない

ただちにその欲動の禁圧、断念、昇華を要求することを分析的ということはできない

　

それはただ無意味な処置をした

それはただ無意味な行動をした

　

ｐ１２０

これについても思いわずらうまでもない。誰の目にも明らかである。

これについても誰の目にも明らかである。

　

情熱に対してはそんなに厳めしい口のきき方で対するものではない。そんなことをすれば、

情熱に対しては厳めしい口のきき方で対しても無駄である。

　

婦人患者の感傷的な感情に応ずる方法がある。それはただ状態がもっと安定して

婦人患者の情愛的な感情に報いてあげることを確言するが、ただ関係をもっと安定した軌道に導いて

　

この感傷性に伴う一切の肉体的行為を回避するというやり方であって

この情愛に伴う一切の肉体的行為を回避する、というやり方であって

　

精神分析療法は真実性の

精神分析手当ては

　

この点にこそ精神分析療法の及ぼしうる作用力と

この点にこそ精神分析手当ての及ぼしうる教育力と

　

分析技法に精通したものであれば、分析医にはやむをえない嘘や見せかけはだいたいにおいて縁がないのが原則であるし

分析技法に精通したものであれば、ふつう医師にはやむをえない嘘や偽装は、だいたいにおいてすでに縁がないし

　

婦人患者に対する感傷的な感情の

婦人患者に対する情愛的な感情の

　

・また私は、以上述べたことによって分析技法の立場からすれば、分析医に愛情を求めている婦人患者には、望んでいる満足を与えないようにすべきだという命令を与えなければならないと言ったつもりであるが、これはすでに読者にも了解されたことと思う。

・また私はすでに、分析技法の立場からすれば、愛情を欲求している婦人患者には、希求している満足を頓挫versagenさせるべきだ、という命令を医師に与えなければならない、とお伝えしてきた。

　

分析治療は禁欲のうちに

治療Kurは禁欲のうちに

　

単なる肉体的節制

単なる肉体的欠乏

　

また人間として欲するものすべてを節制するというのでもない

また欲望するものすべてを欠乏するというのでもない

　

われわれは欲求や憧憬を

われわれは欲求や思慕を

　

ｐ１２１

直接的な真の満足を

実際の満足を

　

分析治療は節制の中で

分析治療Kurは欠乏の中で

　

その愛情欲求を満たして

その情愛への欲求を癒して

　

こうして受け入れてやる

こうして報いてあげる

　

婦人患者の方は目的を

婦人患者の方は目標に

　

分析医の方はけっしてその目的を

彼の方はけっしてその目標に

　

彼女を動かして治療の課題を

彼女を動かして治療Kurの課題を

　

彼女の求愛が受け入れられ、治療が

彼女の求愛が報いられ、治療Kurが

　

すべての患者が分析治療において得ようとすることだが、彼女はただ記憶を（言語的に）想起し

すべての患者が分析において志向することだが、彼女はただ想起し

　

・行動化し、実生活中に（行為的に）反復することができたのである

・実演し、実生活中に反復することを成し遂げたのかもしれない

この段落は、最後の二文を除き接続法二式で書かれている。

　

・すべての禁制、病的反応を表面に露呈するようになるが、もはやそれを是正することは不可能であり、こうしてこの惨めな体験を後悔しつつその抑圧傾向をいっそう強化して終わってしまうであろう

・すべての制止、病的反応を表面に露呈するようになるであろうし、それを是正することはできず、この惨めな体験を、後悔しつつ自らの抑圧傾向をいっそう強化することで締めくくるであろう

　

分析治療の影響力を

分析手当ての影響力を

　

またその両者が一つになったのでは、これはもう治療でもなんでもない

またその両者を一つにしてしまうのはばかげている

　

婦人患者の愛情願望を承認することは、それを抑制することと同様、分析治療にとって危険である

婦人患者の愛情希求を許諾Gewaehrungすることは、それを禁圧することと同様、分析にとって危険である

Gewaehrungはｐ１２５の２行目にも登場する

　

分析医のとるべき道は

分析家のとるべき道は

　

ｐ１２２

われわれは恋愛転移を回避したり

われわれは恋愛転移から話題を逸らしたり

　

またそれに応ずるということも

またそれに報いるということも

　

・しっかりと抑えておいて、それを非現実的なものとして、治療の範囲内で解決し、その無意識の根源に遡り、患者の愛情生活の中で、最も深く隠蔽されたものが意識に、したがってまたその支配下に置かれることを助けなければならない状況として取り扱う。

・しっかりと保つが、それを非現実的なものとして扱う。この非現実的な状況は、治療Kurの中で貫徹されてその無意識的根源まで遡られねばならないし、この状況の助けを借りて、患者の愛情生活の中で最も深く隠されたものが意識に、したがってまたその支配下に置かれなければならない。

「しっかりと保つ」は次の段落の二行目に対応しているが、ここでは「抑える」と逆の意味にされている。こういうことがあるからこそフロイトの著作は原文と照らし合わせて読まねばならないのである。

　

・ただ背景に押しやられているにすぎないから

・ただ背景に押しやられているにすぎないが

　

その性的憧憬のすべての空想、その恋愛の

その性的思慕のすべての空想、その惚れ込みの

　

・分析治療のために保持しておくことが

・分析作業のために保持しておくこの試みが

　

・この種の女性はいかなる代償物にも堪えられない根源的な情熱を持った　

・この種の女性はいかなる代償物にも耐えられない天然の情熱を持った

　

・「肉団子を解説とし、スープを論理として」しか

・「論拠を肉団子として入れた、スープの論理で」 しか

　

あるいはこの女性の愛情をはねつけ、その結果彼女のありとあらゆる憎悪を

あるいははねつけられた女性のありとあらゆる敵意を

　

・われわれは治療上の関心を感じることはできない

・治療Kurの利益を守ることはできない

　

・われわれはむなしく手を引き、いったい神経症になりうる能力というものは、このように動かしがたい恋愛欲求と一致するものだろうかという問題を考えるばかりである。

・むなしく撤退せねばならず、また、神経症になりうる能力が、これほど強く愛情を必須とするさまといかにして一致しているのかという問題を自らに課すかもしれない。

　

・このような場合と違って、愛着がそれほど激烈でない婦人患者に漸次分析的な考え方をもたせるように指導するにはどうしたらよいか方法がよいか、

・それほど激烈でない惚れ込みを示す者に 　

　

・これも多くの分析医には前と同じようにして明らかにされるであろう。われわれは、何よりも、この「恋愛」には見損なうべくもなく抵抗が関与していることを強調する。

・これも多くの分析家に前と同じようにして明らかにされてきたはずであろう。何よりも、この「恋愛」には見損なうべくもなく抵抗が関与していることが強調されている

　

・本当に彼女が恋愛しているならば、そのことは彼女を従順にし、その愛人が

・本当の惚れ込みであったら、彼女を従順にし、その愛する人が

　

喜んでまず治療の完成を目指し

喜んでまず治療Kurの完成を目指し

　

・しかし実際はそうではなく

ここより前の二文は接続法二式で、ここから段落末までは接続法一式が続く。よって段落末までは間接話法の文であって、多くの分析家が明らかにしてきた内容の紹介である。

　

ｐ１２３

治療への一切の関心をかなぐり捨て

手当てへの一切の関心をかなぐり捨て

　

彼女は恋愛という現象形式で

彼女は惚れ込みという現象形式で

　

そうすれば彼女は失恋した女として振る舞うことができ、現在いわゆる恋愛と称しているものの結果として分析医の治療を免れているように、今度は逆に分析医に対する憤怒と復讐心から彼の治療を免れることができるのである

そうすれば彼女ははねつけられた女を演ずることができ、現在惚れ込みと自称しているものの結果として彼による治癒を免れているように、今度は逆に憤怒と復讐心から彼による治癒を免れることができるのである

「はねつけられたverschmaehte」はｐ１２２下段に合わせた

　

その真実性を否定する

その真実性に対立する

　

・これらの論議を十分に身につけ、さらに必要な量の現実的な忍耐を行うならば、困難な状況を克服して恋着の程度を減少させるか、あるいは消滅させるかして分析の仕事をさらに継続し、その操作目標を幼児的な対象選択、およびそれにまつわる空想の発見におくことに成功することができる。

・これらの論拠を十分に身につけ、さらに必要な量の忍耐を行うならば、困難な状況を克服して惚れ込みの程度を減少させるかあるいは消滅させるかして作業をさらに継続することに大抵は成功し、その場合その作業の目標は幼児的な対象選択、およびそれにまつわる空想の発見となる。

「大抵は」の一語が入ることで、この論文が単に机上の理念型を示しているのではないことがよくわかる。なお、「幼児的な対象選択」については次の段落で、「空想」についてはｐ１２４の終わりで例が示されている。

　

右に述べてきた論議に

右に述べてきた論拠に

　

真実の隠蔽と歪曲に逃避したのではないだろうか

真実の隠匿と歪曲に逃げたのではないだろうか

　

分析治療中に顕在化する恋愛は

分析治療Kur中に顕在化する惚れ込みは

　

われわれの二つの論議のうちでは

われわれの二つの論拠のうちでは

　

抵抗が恋愛転移に

抵抗が転移性恋愛に

　

第二の論議の方は

第二の論拠の方は

　

このような恋愛は

このような惚れ込みは

　

いかなる恋愛にも繰りかえされる

いかなる惚れ込みにもみられる

　

幼児期の原型を反復しないような恋愛は

幼児期の原型を反復しないような惚れ込みは

　

転移による恋愛はおそらく現実生活の中にあらわれる

転移性恋愛はおそらく生活の中にあらわれる

　

ｐ１２４

しかし、これがそのすべて、その本質的なものである、というわけではない

しかし、これらがすべて正しいとしても、本質的なことではない

ここについてはあまり自信はありません。ただ、「本質的wesentlich」は前頁の最後から５行目と対応していることはたしかです。

　

その行動能力だろうか、それとも愛情目的貫徹のための適応能力だろうか

その効能だろうか、それとも愛情目標の貫徹のための有用性だろうか

　

われわれは感情転移性の恋愛からも

われわれは転移性恋愛からも

なお、この文の後で段落が切れる。

　

われわれは分析治療中に表面に現れる恋愛に

われわれは分析手当て中に表面に現れる惚れ込みに

　

たとえ転移性の恋愛が正常でないといっても、分析治療以外の場にあらわれる普通の恋愛にしてみたところで

たとえこの惚れ込みが正常でなさそうにみえるといっても、分析治療Kur以外の場にあらわれる普通の惚れ込みにしてみたところで

　

ともあれ、転移性の恋愛について

ともあれ、この惚れ込みについて

　

正常な恋愛に認められるよりも

正常な惚れ込みに認められるよりも

　

・愛人の評価についてもいっそう昏迷に陥っている

・愛する人物の評価についてもいっそう眩惑されている

　

まさにこの正常から逸脱しているという特徴こそが一般の惚れ込みの

まさにこの規範Normから逸脱しているという特徴こそが惚れ込みの

　

分析医は神経症治療のために分析治療を導入したことで、この恋愛を

医師は神経症の治癒のために分析手当てを導入したことで、この惚れ込みを

　

これは患者の身体を裸にしたり、生活上の重要な秘密を打ち明けさせたりするのと同じで、分析医の立場としては当然避けがたい結果である

この惚れ込みは、医師の状況からして、患者の身体を裸にしたり、生活上の重要な秘密を打ち明けさせたりするのと同じく、当然避けがたい結果である

　

患者はそれ以外の治療の機制（治療の仕方）を持たないという事実を、われわれは知らなければならない

患者はそれ以外の治癒の機制を持たないという事実を、医師は知らなければならない

　

しばしばこの（自己愛的な）期待空想を抱いて治療を受けるようになったことを告白する

しばしば次のような期待空想を抱いて治療Kurを受けるようになったことを告白する

　

もし自分が正直にやっていたならば、最後には分析医から優しい愛情に富んだ態度をもって報いられる

もし自分が言いつけを守れば、最後には医師からの情愛をもってご褒美を与えられる

　

ｐ１２５

患者の恋愛の許容を

患者の愛の許諾を

　

彼の目的は

彼の目標は

　

ただしそれを治療中に使い果たしてしまわないで、むしろ治療が終わった後で

ただしそれを治療Kur中に使い果たしてしまわないで、むしろ手当てが終わった後で

　

この目的を

この目標を

　

まだ若年でしっかりとした基礎ができていない男子は

まだ若年でしっかりと身を固めていない男子は

　

愛情生活における

愛の享楽における

　

・これを拒否し、斥ける役割

・これを追放し、頓挫させるVersagenden役割

　

何ものにも比すべくもない魅力が

何ものにも比すべくもない魔力が

　

婦人患者の卑しい欲求などは誘惑にならない

婦人患者の卑しい希求が誘惑になるわけではない

　

目的を抑制された願望感情の方が、

目標を抑制された願望の動きの方が、

　

とはいえ、分析医にとって妥協は

とはいえ、分析家にとって譲歩は

　

彼女は分析医から

彼女は分析家から

　

ｐ１２６

このように、精神分析医は

このように、分析的な精神療法家は

　

分析医の外部に対しては

分析の外部に対しては

　

性的本能の力の意味について分析医に反対し

性欲動の力の意味について彼に反論し

　

そして分析治療そのものの中では、はじめは分析治療の反対者と同じ態度を取っているが、やがて自分の性生活を高く評価する考え方に支配されていることを自白し、その社会的に束縛されない情熱をもって分析医を虜にしようとする患者に対する闘いを、である。

そして分析そのものの中では、はじめは反対者と同じ素振りをみせているが、やがて性生活を高く評価する考え方に自分が支配されていることを自白し、その社会的に馴化されない情熱をもって医師を虜にしようとする患者に対する闘いを、である。

　

一般の人々が精神分析学に

素人が精神分析に

　

この治療法が

この療法Therapieの方法が

　

精神分析医自身も、自分が操作しているのは、最も激しい爆発力を具えたものであり

精神分析家自身も、自分が、最も激しい爆発力を用いて作業しており

　

特権のすべてを精神分析学は

許認可のすべてを精神分析は

　

私は危険の伴わない処置方法は価値がない

私は危険の伴わない諸々の手当て方法は放棄すべきだ

　

治療上の情熱も安全第一主義で危険なしに済まそうとすれば済ますこともできる

療養上の情熱furor sanandiも必要とせず済ますこともできる

　

否、むしろ医療行為には、医術と並んで、鉄と火を加えるべき余地が残されていなければならない

否、むしろ医師の行為には、医薬medicinaと並んで、鉄ferrumと火ignisの加わる余地がやはりいつまでも残りつづけるであろう

「鉄」と「火」は、それぞれ、メスや針などの用具と、（消毒などのための）加熱を指すのではないか。そうだとすると、これらは、侵襲的で危険を伴う手法の例としてあげられているのだろう。

　

正しい技法による妥協のない精神分析療法が

正規の、妥協のない精神分析が

　

それはどんなに危険な精神活動をもあえておそれることなく処置し、患者を幸福に導いていこうとする治療なのである

それはどんなに危険な精神の動きをも、あえておそれることなく取り扱い、患者の幸福のために制御しようとするのである

「取り扱うhandhaben」はこの論文の最初の段落に合わせた。

２００３年６月１３日作成／２００３年６月２０日改訂（改訂分は行頭の「・」で表記）／２００６年３月２９日「Kur」の訳語を修正