フロイト著作集第９巻
翻訳正誤表（気づいたところだけ）
『精神分析療法の道』
いくつもの語に「治療」という訳が当てられているが、日本語で「治療」というと、「患者に働きかけて、病状が改善する（治る）」という二段階の両者を含意してしまう。単に患者への処置について述べられたことを、病状改善に役立つことのように読まれてしまうことは誤解を招きやすいので、Behandlungに「手当て」、Therapieに「療法」、Heilungに「治癒」、Technikに「技法」を当て、Kurについてのみ（この語にも「治す」という意味は希薄であるが、「kurieren」という動詞には「治す」という意味がありそうなので）「治療」を用いることとする。
ｐ１２７
現在われわれが一定の地位を獲得した基礎になっているわれわれの治療法
現在われわれが一定の地位を獲得した基礎になっているわれわれの療法
「療法Therapie」の訳はこの論文のタイトルに合わせた。
自分たちの分析医としての仕事は
自分たちの医師としての課題は
「分析医」とされている語はすべて原文では単に「医師」である。
抑圧された感情を
抑圧された動きを
「動き」はｐ１２９下段の終わりから４行目に合わせた。
（現実原則に基づいた）
→不要
ｐ１２８
この新しい関係について
この関係について
意識化する仕事をわれわれは精神分析（操作）と名づけた
意識にもたらす作業をわれわれは精神分析と名づけた
この分解解析を意味する作業が、そして自然の中に発見した材料を実験室に持ち帰って操作を加える化学者の作業との類似を思わせることが、どのような理由で「分析」なのだろうか。
「分析」とは分解解析を意味し、そして自然の中に発見した材料を実験室に持ち帰る化学者の作業との類似を思わせるが、なぜ「分析」というのだろうか。
本能の働きである
欲動の動きである
それをひきおこす源泉となっている本能の動きまで
それを動機づけている欲動の動きまで
その原因となっているものが
その動機となっているものが
それから人間の性的欲求も
それから人間の性的志向も
「志向Streben」はｐ１２９下段４行目に合わせた
彼の内にある
彼の内に、
ｐ１２９
今度はわれわれが分析にあまりにも多くを費やしすぎ
今度は分析にあまりにも多くが費やされすぎ
精神分析操作の作業は、科学的な分析操作とある点で類似を示しているが
精神分析の作業は、科学的な分析といくつかの類似を示しているが
（物理化学の世界と違って）統一化と総合に向かう一種の自動的傾向
統一化と総合に向かう一種の強迫
あるひとつの本能興奮をある関連の中から解放する
あるひとつの欲動の動きをある関連の中から解き放す
他のものに結合されていた本能の動き
他のものに拘束されていた欲動の動き
分析治療を受けている
分析手当てをされている
ｐ１３０
われわれの治療法の発達はおそらく別の方向を取ることであろう
われわれの療法の発達はおそらく別の道を取ることであろう
「療法」「道」は論文タイトルに合わせた。
あるヒステリー症の分析治療における
あるヒステリー分析における
「能動性」と名づけた方向であろう
「能動性」と名づけた道であろう
われわれの意見は一致するであろう
われわれの意見は即座に一致するであろう
われわれは自分たちの治療上の課題を
われわれは自分たちの療法上の課題を
患者にあらわれる抵抗を彼がひとりで解決する
患者に対して指摘された抵抗を彼がひとりで終結させる
患者に転移を原動力にして
患者に転移の切迫によって
やはり外界の幾多の事情に
やはり外的布置としての幾多の事情に
この外界の事情に適切な方法で関与する
この布置を適切な方法で手術する
ｐ１２９で「外科医の手術」とされた語であるから、やや強引ながら訳語を統一した。
私は分析治療を行っている分析医が
私は分析手当てを行っている医師が
分析療法は、それが可能である限り節制
分析治療Kurは、それが可能である限り欠乏
どんな満足も味わわないですませるという意味
どんな満足も欠乏しているという意味
罹病および治癒の
罹病および回復の
患者を病気にしたものは欲求満足の挫折であり
患者を病気にしたものは頓挫Versagungであり
ｐ１３１
役割を果たすものであること
役割を果たすものであったこと
治療のあいだ
治療Kurのあいだ
治癒へ向かって押し進んでゆく本能の力
治癒へ向かって衝迫する欲動の力
われわれの治療目的のためには危険である。
われわれがもつ治癒の意図のためには危険である。
治療への原動力としての効果を保つために
→不要
われわれはその苦痛の代わりを、厳しい節制という形で再び与えなければならない
われわれは病苦を、どこか他のところで、厳しい欠乏として再び打ちたてなければならない
長続きしないような回復しか
長続きしないような改善しか
患者は分析治療によってその病気であることに安住していた状態が
患者は分析によってその病気が
多種多様な行動、恋愛、慣習、以前から存続していた既存のものにリビドーをまつわらせ
多種多様な活動、愛好物、慣習、以前から存続していた既存のものにリビドーを備給し
患者はこんな風にして治療実施のために必要なエネルギーを脱漏させてしまう偏向を
患者はこんな風にして治療Kurの運行のために必要なエネルギーを枯渇させてしまう転導を
これらすべての偏向を嗅ぎつけ
これらすべての転導を嗅ぎつけ
その神経症に固着させている
その神経症に固持させている
神経症がいつまでも長引くことに対する諦めが生まれてくる
神経症を継続することを断念する
著作集の訳では意味が逆になる。
強力な干渉として現れることになる
強力な干渉として現れねばならない
ｐ１３２
分析治療を推進する本能的な力を
分析の原動力［欲動力］を
患者は治療中
患者は治療Kur中
ただ代理満足を求めるだけでなく、そのようなやり方で、自分に課された欲求満足の断念という現実を補償しようとさえするのである
そのうえ、そのようなやり方で、自分に課された断念を代償しようとさえ志向するのである
分析医として患者を
分析家として患者を
彼ら自身に課せられた課題に対してもっと行動力豊かにしてあげる治療的な努力を放棄することになる。分析療法では
彼らの本来の課題に対してもっと有能にしてあげることを断念することになる。分析治療Kurでは
患者は満足されない願望を
患者は充足されない願望を
最も切実に表現している満足そのものを満足させないでおく
最も切実に表現している満足そのものに頓挫versagenさせる
「治療においては断固として節制を守らねばならない」という命題によって、分析医に求められた
「治療Kurにおいては欠乏が打ち立てられねばならない」という命題によって、医師に望まれる
分析活動の
分析の能動性の
それほど深入りした働きかけを行うことは、治療目的にとっても必要ない
それほど深入りした能動性は、療法Therapieの意図にとっても必要ない
ｐ１３３
患者はわれわれ分析医との類似模倣を目標とするのではなく
患者はわれわれとの類似模倣に向けてではなく
精神分析療法はある特定の
精神分析はある特定の
結局最後にわれわれの取り扱う種々の形式の病気は
われわれの取り扱う種々の疾病形態は
必然的に全く別の種類の能動性がわれわれ分析医に課されるようになってきた
最新letztの、全く別の種類の能動性がわれわれに要請される。
われわれの技法はヒステリーの治療から
われわれの技法はヒステリーの手当てから
依然として現在もなおこの病気を治療することを
依然として現在もなおこの病気を整復einrichtenすることを
患者が恐怖症を分析治療によって放棄しようという気持ちに動かされるまで待っていたのでは、ほとんどこの恐怖症を治療的に支配することが不可能である
分析によって患者が恐怖症を放棄しようという気になるまで待ってabwartenいたのでは、ほとんどこの恐怖症を支配することが不可能である
そのようなやり方では、患者は決して分析治療中に、恐怖症を確実に解決するために欠くことのできない材料を提供することをしない
そのようなやり方では、患者は決して、恐怖症を確実に解決するために欠くことのできない材料を分析へと提供することをしない
臨場恐怖症患者
広場恐怖症者
この不安に対して自己を防衛する
この不安に対して自己を保護する
われわれは分析治療の影響によって
われわれは分析の影響によって
そしてその企てのあいだ不安と闘うように自分の気持ちを動かすことができるようになる場合にだけ成功したということができる。つまりわれわれは、
そしてその企てのあいだ不安と闘おうという気にさせることができるようになる場合にだけ成功を収めるということができる。それゆえわれわれは、
ｐ１３４
患者は恐怖症の解決を可能ならしめる自由連想法による思いつきや記憶を連想したり、想起することができるようになる
患者は恐怖症の解決を可能ならしめる着想や記憶を手に入れることができるようになる
一般的に「漸進的」な治癒過程つまり無限に続く治療経過に傾きやすく、したがってその分析治療に
一般的に「漸進的」な治癒事象つまり終わりなき手当ての期間に傾きやすく、したがってその分析に
危険が伴うような強迫行為を訴える重症患者の場合に、われわれが受動的にいつまでも待つという態度をとる場合である
危険が伴う、強迫行為の重症症例の場合に、われわれが受動的にいつまでも待つzuwarten〈＝手をこまねいて静観して待つ〉場合である
分析治療それ自体が強迫となるまで待ち
治療Kurそれ自体が強迫となるまで待ちabwarten〈＝機をうかがいながら待つ〉
病気の強迫を押さえつけるという点にあるように思われる
疾病の強迫を禁圧するという点にあるのは疑う余地のないことと思われる
われわれの治療方法が
われわれの療法が
われわれの治療活動は
われわれの療法の効力は
われわれ分析医の人数は
われわれの人数は
精神分析療法についてのありとあらゆる偏見によって歪められている
精神分析についてのありとあらゆる偏見によって転導されている
われわれ分析医の数がもっとたくさんの大衆の治療を
われわれの数がもっとたくさんの大衆の手当てを
ｐ１３５
不良化か神経症かの選択の前に立たされていた子どもに分析治療を施すことによって
粗暴化か神経症かの選択の前に立たされていた子どもに、分析によって
そしてこれらの治療は
そしてこれらの手当ては
きっと分析療法を大衆に
きっとわれわれの療法を
直接暗示という銅を合金するような技法の修正や工夫を行わざるを得なくなるであろう
直接暗示という銅を合金せざるを得なくなるであろう
催眠術的な作用も戦争神経症の処置の場合のように
催眠的な影響も戦争神経症の手当ての場合のように
何ら偏向したところのない精神分析療法から借りてきたものであるに違いない
何ら偏向したところのない精神分析から借りてきた要素であるに違いない
２００３年６月２２日作成／２００６年３月２９日「Kur」の訳語を修正
